夏の日の夢






 バイト先の喫茶店を出ると、もわっとした熱い空気が体を包んだ。

 連日、猛暑日が続いていて、冷房が効いた店内と外気の温度差はかなり大きく感じられた。

 実際、相当違うのだろう。

 そんな暑さの中、自転車に跨り、ペダルを漕ぎ家路につく。

 マンションに辿り着く頃には、汗びっしょりになっていて、

 俺は持っていたタオルで額に浮かんだ汗を拭った。

 エレベーターを上がり、家の呼び鈴を押すと椎が出てくる。

 エプロンをしているところを見ると、料理中だったようだ。

 「おかえり。外、暑かったろ?」

 そう聞いてくる椎は、なんだか涼しげだ。

 爽やかだな、おい。イケメンは暑くても爽やかに見えるのか?

 「ただいま」

 と答えてドアを閉めると、椎が抱きしめて軽いキスをしてくる。

 暑いと知っててくっつくんだよな、と思いながら抱きしめ返したら、

 奴の体はヒンヤリしていて、俺はちょっと驚いた。

 むっちゃ冷えている。

 なんでこんなに冷えているかと言えば、冷房を結構効かせた部屋にいたからに違いなかった。

 椎は時期的に、ちょっと暑くなり始めたらすぐに、クーラーをつけるようになった。

 「これぐらいならまだ我慢できるよ」

 という程度の暑さの日でも、椎はクーラーを入れる。

 エコとか節約、という言葉から遠いところにいる男だ。

 冷えた体は気持ちよくて、うっかり、もう少し抱きしめていたいと態度に出してしまいそうになる。

 それを抑えて奴を離れ、俺は靴を脱いだ。

 そんなことを態度に出したりしたら、また飯にありつけないまま寝ることになってしまう。

 「毎日めっちゃ暑いな。ちょっと動くだけで汗かくよ」

 そう言いつつ上がって、居間のドアを開けて入って行くと、

 そこはガンガンに冷えていて、俺は一瞬動きを止めた。

 なんとなく予想していたけれど、それでもちょっと衝撃を受けるほどの冷え加減だ。

 「お前、冷房効かせ過ぎ」

 斜め後ろの椎に言う。

 冷たい空気に、スッと汗が引いて、体が冷えていくのを感じる。

 「そうかな」

 「さみーよ」

 「玲二とくっつくの前提の設定温度だから。もしくは寒い方が玲二がくっついてくれそうだから」

 俺は、何も言わずにテーブルの上に置いてあったクーラーのリモコンを手に取った。

 「ちょっと上げるぞ」

 センサーに向けて設定温度を上げるボタンを数回押し、眉間にしわを寄せる。

 もしくは、じゃない。

 こんなに温度差のある生活をしていたら、体がどうにかなってしまいそうだ。

 

 夕飯の後、ソファで寛いでいると、椎が来て隣に座った。

 テレビに目を奪われていて、ふと気づくと、いつの間にか俺の足に奴の足が絡んでいる。

 それを見て、これって、どうなんだろう、と思う。

 始めのころは、ここでくっつくと、エッチに発展してしまっていたが、

 最近ここは、ただただくっつく為の場所になっている。

 「手をつないでてもいい?」と言われて、「…いいけど」と答えたら手をつないできて、

 それを許していたら、それからは足を絡めるわ、膝に頭を乗せてくるわで、

 このソファに一緒に座っているときは、必ずどこかしらくっついているようになった。

 無意識にやってるように見えるくらい自然に絡んだり触れたりしていて、

 今では俺も 椎の足や手や頭の重さに慣れて違和感も感じない。

 いつものことなので取り立てて反応もしないけど、人前で奴がそうしても、

 自分、おかしいということに気づかなくなっているんじゃないかと、たまに突然、不安になるときがある。

 ソファではエッチに発展させない、という暗黙の了解みたいなものが、いつの間にか出来ていて、

 それはそれでいいような気もするけれど…

 …いい、のか?

 「今度の土曜の夜、花火大会に行こうか」

 俺の太腿に手を置いて、椎がそう言い出し、俺は顔を歪めた。

 「人ごみに揉まれるだけだぞ。夜でもあんまり涼しくないし」

 「汗だくになったらなったで、楽しいって」

 「何が楽しいんだよ」

 「その後が」

 椎が言いながらニッと笑う。

 「汗だくで、汗の匂いがする玲二、抱きたい」

 それを聞いて、そういえば以前そんなようなことを言っていたのを思い出した。

 「そっちが目的か」

 俺がじっと見ると、

 「そっちも目的。俺、マジで玲二と一緒に花火見たいし」

 椎が、考えただけで楽しいという感じの表情をするので、

 まあそういうデートっぽいことをここのところしていないし、いいか。という気になる。

 俺は壁のカレンダーに目をやった。

 「何時から?」

 「確か七時半」

 七時半なら、バイトが終わってからでも間に合う。

 「分かった。土曜日な」

 俺は頷いて、了承した。

 

 

 そして、日は流れ、土曜日の朝。

 目が覚めたら、喉が痛かった。

 夜、クーラーをつけっ放しで寝ているので、喉が渇いていると感じる朝は何度かあったが、

 痛いと感じるのは今夏初めてだ。

 なんとなくヤバイなと思ったけれど、熱を測ったら平熱だったので、

 いつもの土曜日通り、俺は朝からバイトに出かけた。

 椎は、午前中はクリニックの手伝いで、午後からはジムの予定だ。

 「今日は、花火大会だから」

 俺の方が出かけるのが早いので、玄関で靴を履いていたら、出てきた椎が言ってくる。

 「大丈夫。忘れてないよ」

 靴を履き終って顔を上げたら、椎が俺の足元をじっと見つめていた。

 「何?」

 「あ、いや」

 椎は少し考えるように首を傾げた後、俺の履いているサンダルを指差す。

 「来年は誕生日にサンダル、プレゼントするよ。俺が選んでいい?」

 言われて俺もそれに視線をやった。

 履きこんではいるが、まだくたびれた感じにはなってない。

 「これ、あるからいいよ」

 「来年もそれ履く気?」

 「そうだけど。なんか問題あるのか?」

 割と気に入っているサンダルを悪く言われているようで、俺はちょっとムッとした。

 気に入ったものは昔からしつこく使う性質(たち)だ。それのどこがいけないのか。

 「もっと楽しませてくれないと」

 椎がそう口にして、俺が、どういうことなのかと眉間にしわを寄せ、

 「は?」

 と口にすると、

 「何足あったっていいだろ、サンダルくらい」

 椎が、みなまで言わせるなという感じで、ちょっと焦れったそうにした。

 それを聞いて、俺はやっと思い出す。我ながら鈍い。

 そう言えば、椎は足首フェチだった。

 「俺が選んだの、履いて欲しいんだよ」

 それを聞いて、俺はじとっと椎を見る。

 で、脱がすんだろ。これまでの例からいくと。

 俺は脱ぐ為に、履くんだよな。

 小さく溜息をつく。

 俺の足首のどこがいいのか、俺自身には全然分からない。

 他の人と何が、どこが違うというのだろう。

 「誕生日プレゼントはサンダルだから。自分で買うなよ」

 俺に向かって、念を押すように言う椎に苦笑する。

 いつの話だよ。鬼が笑うぞ。

 でも、何をプレゼントするか、椎だけもう決まったなんて、なんかズルイなぁ。

 俺なんかいつも何を渡そうか迷いに迷って、結局なにも渡していないというのに。

 ……。

 そう考えると、今ぐらいから考えてちょうどいいのかも知れない、という気もしてきた。

 

 

 夕方になり、バイトを終えて帰る頃には、かなり喉の痛みが増していた。

 体も熱い。これはもう風邪を引いたに違いなかった。

 どうして今日に限って、風邪引くかな。

 行けなくなったら、椎はきっとガッカリするだろう。

 自転車を漕いで、汗だくになりながら、そんなことを考える。今日も暑い。

 家に帰ると、椎が先に帰って来ていて、夕飯を作っていた。

 「ただいま」

 「おかえり」

 相変わらず部屋は冷えていて、冷たい椎が、俺を抱きしめてキスしようとしてくる。

 俺は、抱きしめられた後、唇が合わさる前に、ふいっと顔を背けた。

 椎が「え」という顔をする。

 「ちょっと、キスはパス」

 「なんでっ!?」

 ものすごく悲壮な感じの声をあげるので、俺は思わず笑った。

 なんか、一大事みたいだ。

 俺は、黙って椎を離れて薬箱のところへ行き、体温計を取り出す。

 その様子を見て、椎が怪訝そうに眉間にしわを寄せた。

 「熱、あるの?」

 聞かれて、ソファに座って計測が終わるのを待ちつつ、

 「んー、風邪引いたかも」

 と答えると、椎も隣に座る。

 「キスはなしって…そういうことか」

 椎がホッと安心したように呟いて、納得した顔をした。

 ほどなくピピピ…という電子音がして、表示を見たら、三十八度を超えていた。

 「何度あった?」

 「38.5」

 告げると、びっくりしたように椎が俺を見る。

 「結構あるじゃん」

 「…そうだな」

 それがハッキリ分かった途端に、病状がずっと重くなったような気がした。

 分かる前から、前頭部がずんと重かったけれども。

 「悪い。花火大会、また別の機会にしてもらってもいいか?」

 とても行けそうにないので、椎の表情を窺うようにすると、椎が強い口調で言う。

 「当たり前だろっ。こんな時に、そんなのどうだっていいよ」

 俺は、申し訳ない気持ちになった。

 「せっかく楽しみにしてたのに、ゴメン」

 それを聞いて、椎が、

 「そんなこと…花火大会はまたいつでも行けるし」

 と言いながら、俺を抱きしめた。

 「飯は?食える?」

 そのままの姿勢で、耳元で聞いてくる。

 「向こうでも何か買って食べるだろうと思って、夕飯軽めに作っといたんだけど…」

 テーブルの上には、確かに軽く腹を満たせそうな量の食事が乗っていた。

 「うん。…でも少しでいいや」

 俺が答えて、もう食ったら薬飲んで寝ようと思っていると、

 「本当、熱いね」

 と言ってから、椎が離れて心配そうにした。

 ところが、その一瞬後には何か企んでいるような表情でニッと笑う。

 「でも、俺、花火大会より玲二の看病の方が百倍楽しいかも」

 なっ。

 「なんで楽しいんだよっ。不謹慎な奴め」

 全く、なにを考えているんだか。

 看病……とかって、頼むから悪ふざけはしないでくれよ。

 俺は、椎の言葉に、お医者さんごっこでもする気なんじゃないかと、ちょっとだけ不安になった。

 

 飯を食って薬を飲み、その日は早めにベッドに入った。

 熱があるせいか、体が火照っている。

 頭がぼーっとして眠っているのかそうでないのかもよく分からない。

 しばらくすると、体の一部を誰かに触られているような気がして、

 目を開けたら、いつの間にか椎が上に乗っていた。

 「え」

 俺がびっくりして声をあげると、奴が俺のズボンのボタンを外し、手を下着の中に入れてくる。

 「ちょっ」

 いつから体を触られていたのか、知らないうちに反応してしまって、

 半勃ちになっていたモノを掴まれ、ビクッと腰が揺れた。

 熱があって、体ダルいってのに、何してんだコイツはっ。

 と慌てて拒もうとするが、奴は構わずすぐに俺のモノを扱き始める。

 「あっ…椎…やめ…っ」

 風邪で具合が悪いはずなのに、俺の体は感じてしまって、自然と息遣いが荒くなった。

 快感が背筋を駆け抜けて、抑制が効かない感じで、

 まだ始まったばかりだったけど、今にもイってしまいそうな感覚に襲われる。

 「椎っ、もう」

 俺が叫ぶように言うと、椎が、俺のズボンと下着を少しずり下げ、

 「いいよ、イって」

 俺のモノを露わにし、口に咥えた。

 「ああっ」

 締め付けるようにして上下に動かし始める。

 「ハッ…あ…っ」

 感じてイきそうになり、首を横に振る。

 なんだかいつもと違う。

 椎が、口で俺をイかせようとしている。

 これじゃあ、俺だけイってしまう。

 俺だけイって、寝てしまうなんて嫌だ。

 「あっ、椎、椎っ、や…め」

 俺は、必死に止めようとするけれど、椎は、口の動きをいっそう激しく速くして、

 その動きも押し寄せる快感も止められない。

 「ああっ、イく…っ!」

 俺のモノが弾けて、椎の口の中に精液を放った。

 俺は、呆然とした。

 こんな風にイきたくなんかなかったのに。

 椎が無理矢理イかせるから…

 と思ったら、目が覚めた。

 「え」

 目が覚めた、って…

 天井が視界に入って、俺は放心したようにそれを見つめる。

 ベッドの上で横になっている。ということは、俺は今まで眠ってたのか?

 つまり、今のは夢?

 「玲二?」

 すぐそばで声がして、そっちを見ると、ベッドの脇に椎が座っていた。

 「大丈夫か?うなされてるみたいだったけど」

 言いながら、俺の額に手を乗せてきて思わず目を閉じる。

 少し冷たい手の平の感触を感じた後、俺は目を開けた。

 「まだ熱があるし、すごく汗ばんでる。着替えた方がいいかな」

 俺の様子と肌に触れた感覚からか、椎が眉を寄せて言って、俺はギクッとした。

 下半身にイった後の感覚が残っている。

 まさか、俺、…夢精した?

 なんかその周辺、気持ち悪いし…

 ちょっとショックで言葉も発せずにいると、椎が俺を一度離れて、手にタオルと着替えを持って戻ってきた。

 「汗拭いて、着替えさせてあげるよ」

 俺はそれを聞いて焦った。

 手を振って思いっきり拒む。

 「い、いいよっ。俺、自分でやるからっ」

 「なんで。遠慮するなって」

 「遠慮じゃなくってっ」

 必死になって言うけれど、椎は腰のゴム部分に手をかけて、パジャマのズボンを降ろそうとした。

 その動作にギョッとする。

 なんで下から脱がそうとするんだよっ。

 俺は、慌てて両手でゴムの部分を握り、脱がされまいと、渾身の力を込めた。

 その抵抗の仕方が普通じゃないと察したらしく、椎が俺の顔を見て、動きを止める。

 じっと俺を見つめた後、手を放した。

 「汗だくのままじゃ良くないから、上だけでも着替えようか」

 そう言われて、ちょっとホッとした瞬間、椎の手が素早く動いて再び俺のズボンを降ろしにかかった。

 油断していた俺の手は、その動きについていけず、

 下着もろともズボンを降ろされ、結局俺は下肢を露にされてしまった。

 そこを見て椎が、ずばり聞いてくる。

 「イっちゃったんだ?」

 そうハッキリ口に出されたら、頭の中がやってしまった感でいっぱいになり、

 むちゃくちゃ恥ずかしくなって、顔がかあっと火照った。

 そんな俺の様子に、椎がニッと笑う。

 「夢の中で、誰に抱かれてたの?」

 「そ、そんなの」

 俺は、椎の顔を見てから目を逸らした。小声で呟く。

 「決まってるだろ」

 椎が嬉しそうに顔を寄せ、耳元で囁いた。

 「風邪なのに、そんな夢見るなんて、元気だね」

 ね、熱のせいだっ!

 だけど、それにしたって風邪ひいてるってのに、こんな夢見てイっちゃって…

 本当に、俺って、かなりヤラシイんじゃないか?

 夢の中でまであんなに気持ちよくなるなんて…風邪なのに…

 考えたくないけど、頭の中を「淫乱」という文字がよぎって、自分の思考がショックで頭を抱える。

 「淫乱じゃない!!」

 と自分にツッコミたくなるが、説得力がないと感じて余計に落ち込む。

 「だけど面白いなー。起きてる時にイったら寝るのに、寝てる時にイったら起きるんだ。

 寝てる時に寝るのは無理だからかな」

 椎が可笑しそうに笑って、俺はムッとした。

 「知るかよっ」

 こっちは困ってるのに、無邪気に面白がっている椎が恨めしい。

 それはともかく。この汚れた下着を、なんとかしたい。

 絶対自分で洗いたいけど、今、この状態でどうすればそれが出来るんだ?

 椎が、顔を寄せて、唇を合わせようとしてくる。

 俺は慌てて避(よ)けた。

 「か、風邪がうつるからよせって」

 「いいよ。うつっても」

 いいわけないっ!

 椎は、この体の不快具合を知らないからそんなことを言うのだ。

 「バカッ。熱出るってっ」

 椎を突き放そうとしたら、その手を掴まれた。

 「ねぇ、俺、どうやって攻めてた?」

 「はあ?」

 俺は、荒い呼吸をしながら、椎の顔を見た。やっぱ体ダルい。

 「そ、そんなこと」

 と言葉に詰まったら、続けて咳が出て、空いている左手で口を押さえる。

 椎がその手を口から退ける。

 「うつしてもいいって言ってるだろ」

 「いいわけないだろっ、この変態バカッ」

 俺の言葉を聞いて、椎がフッと笑う。

 「変態バカでいいからさ、玲二が許してくれるなら、ヤりたい。俺にうつして治るといいよ。

 風邪って人にうつすと治るって言うだろ」

 「バカは風邪ひかない、とも、言うけどっ?」

 言ってやると、椎がニッと笑って顔を寄せ、両手を掴んだまま唇を塞いできた。

 「ん…ふ…んっ」

 いつもと同じように舌を差し入れて絡ませてきて、それが長いせいか、熱のせいか、頭がボーッとなる。

 離れた椎が俺の上に乗り、俺を見下ろして、言った。

 「ああ。俺もう我慢できない。風邪ひいてる玲二、なんか色っぽいし」

 またそんなわけが分からない理由をつけて、自分に都合よく事を進めようとしている。

 それが分かったけど、どうにも出来ないままでいると、

 椎が俺の手を掴んでいた手を離して、上衣のボタンに手をかけた。

 外しながら首すじに吸い付いてくる。

 「待ったっ!やっぱ駄目だってっ」

 俺が叫ぶと、椎が顔を上げて俺をじっと見た。

 「俺、ダルくてソノ気になれないし、ほんと、椎にうつるからっ」

 絶対に駄目だと思って、ぐいっと、押し離すと、椎はムッとした。

 「なんで。夢の中の俺にヤられて、イっちゃったくせに」

 え。俺は、その口調と表情に、呆気に取られてポカンとして椎を見る。

 どうも椎は、俺の夢の中の椎に対抗意識を燃やしているようだった。

 対抗意識、と言うよりは、嫉妬?

 「ほんとの俺も気持ちよくしてよ」

 バカげてると思うのは、俺だけだろうか。

 俺も、椎をムッとしつつ見返して言った。

 「ヤられてないし」

 「え」

 「咥えられただけで、ヤってない」

 そこが現実のエッチと徹底的に違うところだ。

 挿れないままフィニッシュなんて、現実ではほとんどありえない。

 それでは、椎がイけないし…

 「咥えられて、イっちゃったんだ?」

 驚いた表情の椎に真正面から聞かれて、目を逸らす。

 椎が黙って、何か考えているような様子を見せる。

 俺は、視線を奴に戻した。するとすぐに、

 「どれぐらい良かった?」

 椎が聞きながら、

 「これくらい?」

 俺のモノに手を添え、口に咥えた。

 「あっ、ちょっ」

 先端をぐるりと舐められ、舌を鈴口に差し込むようにされて、その気持ちよさに体がビクッと揺れる。

 それから、一度顔を上げて、椎が言った。

 「玲二はダルくてソノ気になれないんだよな。じゃあ、ヤらなくていいから、抜いてあげるよ」

 「え、でもそれじゃ、椎が」

 「俺は、玲二が気持ちよくなってくれれば、それでいい」

 椎が、愛おしそうに手の内のモノを見つめて、それにちゅっと口づけをする。

 「俺、コレ、思いっきり愛撫してみたかったんだ。

 イったら終わりだと思うからいつも加減しなきゃならなくて、物足りなかった」

 そ、そうだったんだ。

 なんかマジマジと見られて、恥ずかしいという想いが湧くのと同時に、

 それ自体も膨らんでいき、ますます恥ずかしくなる。

 「玲二のコレ、大好きだ」

 そう言って、俺のモノを握る手に力を込めるから、すぐに咥えてくるかと思ったら、

 わざと外すようにして、ペニスの付け根、へその斜め下辺りをペロッと舐めた。

 「はっ、あ」

 くすぐったくて身を捩る。

 そんなとこ舐めんなっ!

 椎がくすっと笑って、また同じ箇所を舐め、体が跳ねた。

 「もう、そこ、舐めんなっ」

 本気で怒ってるのに、くすぐったくて思わず笑ってしまい、俺の反応と表情に、椎がおかしそうにする。

 どう考えても面白がっているとしか思えない。

 と思っていたら、いきなりペニスの側面を一気に舐め上げられ、思わず目を瞑る。

 「んっ」

 そのまま突起物の上を、赤い舌が何度も往復して這いまわり、裏も根元もくまなく唾液が塗されていく。

 「あっ、んっ」

 固く張り詰めたそれの、下の睾丸まで、口に含まれ転がされて、気持ちよさが体中を駆け巡る。

 「椎、もう、ああっ」

 刺激が、腰と後ろのすぼまりに来て、たまらない感覚に襲われる。

 「まだだよ」

 椎が言って、勃ちあがったそれを上からゆっくりと口に含む。

 カリの部分まで咥えて、締め付けながら、その段差を楽しむように上下に動かす。

 そうしつつ、舌も使ってチロチロと鈴口を舐め、溢れてくる先走りをちゅっと吸ったりする。

 「あっ、あっ、椎…駄目、もう」

 俺が訴えるように言うとそれを聞いた椎が、ペニスをぐっと奥まで咥えこみ、上下させるスピードを上げた。

 熱い口の中に呑み込まれ、締め付けられて、

 出し入れする卑猥な水音が響いてくると、こらえきれず腰が浮いた。

 「あ…イ…くっ」

 ビュッと勢いよく、俺のモノが精液を放つ。

 ドクッドクッと脈打つそれを咥えたまま、椎が動きを止めて、

 全部出切ってしまうまで待った後、ゴクリと飲み込んだ。

 体にこもっていた熱が、一気に外に出て行った感じで、力が抜ける。

 「玲二…良かった?」

 聞かれて、言葉もなく頷く。

 「夢の中の俺より?」

 続けて聞かれ、また頷いた。

 体が熱くて、汗だくになっている。

 前だけだったのに、ものすごいことをされたかのように、体全体が虚脱感に包まれる。

 夢の中のフェラとは、全く比べ物にならなかった。

 『本物には敵わない』

 と思っていると、椎が嬉しそうな顔をして唇を合わせてくる。

 ふわっと眠りに引き込まれそうになったところで、汚れた下着のことを思い出してハッとした。

 慌てて唇を離して、

 「椎、下着のことだけど…」

 これだけはきっちり言っておこうと思ったが、

 つかの間、眠気が飛んではっきりした意識も、またすぐに混濁してくる。

 「俺が…洗うから」

 と言うと、

 「大丈夫。洗っとくよ。パジャマも替えとく」

 嬉しそうな顔のまま、椎が軽い口調でそう口にする。

 猛烈嫌だったけど、もうどうすることも出来ず、

 「おやすみ」

 奴の穏やかな言葉を聞きながら、俺は観念して眠りについた。

 

 夜中に、目が覚めた。

 体を起こすと、頭がクラクラする。

 やっぱり熱くて、まだ熱があるのを感じた。

 トイレに行ってベッドに戻ったら、すぐに椎が入ってきた。

 手に何か持っている。

 「ちょっと水分取らないとマズいだろ。桃剥いたけど、食べれる?」

 と聞いてきた。

 手に持っていたのは、小鉢に入った桃だった。

 「うん」と頷くと、ベッドの端に腰掛けて、差し出してくる。

 それを受け取ろうとしたら、手を引っ込めた。「え」と椎を見ると、

 「そう言えば、俺が食べさせてもらったことはあるけど、逆ってなかったよな」

 と、今気づいたように言う。

 俺はこれまでのことを思い出した。

 チョコを口に入れられたことはあるけど…

 あれは、食べさせてもらったとは言わないか。

 と思っていると、椎が桃をフォークに刺して、

 「ほら、アーン」

 口を開けるよう促してくる。

 「いいよ、自分で食べるから」

 と断っても、

 「いいから、口開けて。こんなときは甘えればいいんだよ」

 俺が遠慮してるみたいに言って食べさせる気満々で迫ってくる。

 桃をずいっと近づけてきて、もう唇にくっつくくらいだったので、仕方なく口を開けた。

 桃の瑞々しさと香りと、冷たさを感じる。

 それをもぐもぐと噛んで飲み込むと、

 「ああ。食べさせてもらってる玲二、かわいいなぁ」

 椎が呟き、途端に俺はすごく恥ずかしくなって俯いた。

 「もういい…」

 なんかもう…熱上がる…

 「まだ一口しか食ってない」

 椎が不満げに言って桃を一切れ自分の口に入れ、それを見ていたら、いきなり顔を寄せて口付けしてきた。

 びっくりしていると、口の中の桃を口移しに入れてくる。

 「んっ、んーっ!?」

 椎の手が頭の後ろに回され、固定される。

 抵抗する間もなく入れられ、頭を押さえられ、もう食べるしかなくて、

 そのままそれを咀嚼して飲み込んだら、椎が満足そうな顔をした。

 「ああ、やっぱり食べさせてもらってる玲二、かわいい」

 目を輝かせ、鼻息を荒くしている椎を、呆然と見つめる。

 かあっと頭が熱くなって来た。

 フラッと体が揺らいで、俺は後ろに倒れこむようにしてベッドに横になる。

 もう駄目だ。寝る。

 「玲二?」

 「…寝るから」

 俺がそう言うと、「うん」と椎は笑って、掛け布団を肩までかけた。

 口移しで…口移しで、物を食べたなんて、信じられない。

 知らないからな。こんだけ接触したら、嫌でもうつるし。

 そんなことを考えながら目を閉じたら、

 ひどく疲れた感じがして、俺はすぐに眠りに吸い込まれていき…

 

 むちゃくちゃ長時間寝てしまった。

 目が覚めて、横になったまま居間から聞こえてくるテレビのニュースキャスターの声に耳を傾けていたら、

 今日が月曜であることが分かって愕然とした。

 俺の…俺の日曜日は、どこへ?

 起き上がって、居間に行くと、テレビを見ていた椎が気づいて声をかけてきた。

 「おはよう。どう?よくなった?」

 そう言われて、体からダルさも熱さも消えて、すっきりしていることに気づく。

 喉も痛くない。どうやら治ったらしい。

 「よくなったみたいだけど…なぁ、俺、むっちゃ寝たよな?」

 椎に聞くと、苦笑いを浮かべる。

 「あー、うん。揺すっても何しても起きないから、寝かせといた。風邪には睡眠が一番の薬だって言うし」

 寝かせといた…って。

 「バイト先には連絡入れといたから」

 「…ありがとう」

 なんか釈然としないものを感じながら礼を言って、風呂に行きシャワーを浴び、

 歯も磨いて身支度をし、朝食を摂って大学へと出かけた。

 

 結局、風邪が椎にうつることはなく…

 奴は変わらず、すごく元気だ。

 なんとかは風邪ひかないと言う説には、信憑性があるな。

 でも、ひとつ変わったことがある。

 家に帰っても、冷房がガンガンに効いている、ということがなくなったのだ。

 「クーラーばっかに頼ってたら良くないよな」

 今回のことでちょっと考えたのか、

 どっちかと言うと、物足りない、と思うぐらいにしか効かせなくなった。

 そして、高めの設定で食事をした後、クーラーを切って、あるものを出してくる。

 かき氷機だ。

 「実家にあった」

 と言って持ってきたそれは電動で、普通の角氷でもOKの、

 蓋をして上から押さえつければ簡単に氷をかくことの出来る機械だった。

 氷と色とりどりのシロップと練乳、そして、トッピングに小豆とカットフルーツを用意する(椎が)。

 最初は、「贅沢だな」と思ったが、椎がハマッてしまって毎日食べるので、

 だんだんいろんな種類が楽しめるのは、飽きなくていいかもと思えてきた。

 クーラーを切って、次第に暑くなってくる部屋で食べるかき氷は、美味いといえば美味い。

 「今日も、暑いなー」

 作ったかき氷をソファで食っていると、椎が言いながらくっついてくる。

 「だったら離れろよ」

 と言ったら、余計に密着してきた。

 かき氷、こぼれるって。

 「俺、ちょっとだけ玲二に看病されてみたかったかも」

 椎も氷を口に運びながら、そんなことを言う。

 それはつまり、風邪をひきたかったってことか?

 いくら『なんでもやりたい性格』だからって、そんなことまでは経験しなくてもいいと思うぞ。

 「最近、指輪してない。花火大会行く時、つけて行ってよ」

 椎が俺の手に触れる。

 確かに椎はずっとしているが、俺はしてない。

 家にいるとき以外は外しているのだが、一度外すとついつけるのを忘れてしまう。

 「分かった。つけて行くよ」

 俺たちは、先日のとは違う場所の花火大会に、出かける予定を立てていた。

 今度こそは、風邪を引かないようにしようと、気をつけつつ毎日を過ごしている。

 

 それにしても暑い。

 まだまだ猛暑日は続きそうだ。

 

 

 

 

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 このシリーズは終わったつもりでいましたが、また書いてしまいました^▽^

 これからも予定はないのですが、なにか思いついたら、ポロポロと書いていくかも…です。

 お読みいただきありがとうございました。

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