ペアレント 後編






 家に帰ると、飯が出来ていて、夕飯には少し早かったが、せっかくだから温かいうちにと二人で食べた。

 時間があったからか、テーブルの上には手のこんだ料理が並んでいて、どれもすごくうまかった。

 遅かった理由について、聞いてくるかと思ったが聞いてこない。

 「椎…遅くなった理由、聞かないのか?」

 「友達と話が弾んだんだろ?」

 「まあ、それもそうだけど…親父さんと会ったんだ」

 俺が言うと、椎が驚いて顔を上げる。

 「親父と喋ったのか?」

 「ああ」

 「なんか余計なこと言ってなかった?」

 と聞かれて、家を継ぐ云々の話をしたことを思い出したが、わざわざ言うことでもないと思って、

 「いや、別に」

 と答えた。

 その後も、椎がなんとなく寡黙なのを感じつつ飯を食べ、食べ終わってからソファで寛いでいると奴が隣に来て座った。

 「そう言えば、親父さんに親子どんぶりが好きかどうかって聞かれた」

 椎に言うと、動きを止め、ゆっくりと俺を見た。

 先生が言うところの「固い話」の後、家での家事分担のこととか、休みを二人でどう過ごしてるのか、とか、

 柔らかい話もしたのだが、その会話の途中で、それを言われてちょっと気になっていたのだ。

 「好きだって答えたけど、どういう事なんだろう。

 好物を知りたいなら、そんな聞き方しないだろう?

 どうしてですかって聞いても、笑ってごまかしてる感じで教えてくれなくて…

 『今度食事でも』って事なのか?でも、親子どんぶりに限定するってなんか変だし…

 どこか美味い店でもあるのかな」

 俺が首を傾げていると、椎が苦笑する。

 「あの、クソ親父」

 そう呟いてから、俺を少し気の毒そうな、でもおかしそうな顔で見て言った。

 「玲二…親子どんぶりってのはね、親も子も食うってことだよ。つまり両方とヤるってこと」

 「え…」

 俺は愕然とした。

 それって、つまり…下ネタだった…ってことなのか?

 「玲二、からかわれたんだよ」

 なんかショックで体中の血がすうっと引いていくような感じがする。

 俺たちの事を知ってるからって、結構ズバズバ切り込んで来るなぁとは思っていたけど、

 まさかそんなこと言われてたなんて、全然知らなかった。

 む、息子の恋人にそんなこと言うなんて、セクハラだーっ!

 「まったく、冗談が過ぎるよな。今度会ったら言っとく」

 呆然としている俺に、椎が笑いながらそう言って、それから親父さんのことを思い出している表情で、

 「あんな親父だけどさ、いいとこもあるんだ」

 ちょっと照れくさそうに、そう口にする。

 先生のことを信頼しているし、好きなんだなと分かる口調に、

 俺はからかわれたことをとりあえず置いといて、なんだか微笑ましい気分になる。

 「知ってるよ。優しいし…かっこいい親父さんだよな」

 会っている間の、先生のいろんな仕草を思い出したら、そんな言葉が出てしまい、椎が、「え」という顔で俺を見る。

 今の会話の流れから、なんか勘違いされてしまいそうで、

 「う、嘘だよ。いや、嘘じゃないけど、えと」

 思わず慌ててしまって、その焦ってる感が余計に言葉に怪しさを与えてしまい、それを感じた俺はさらに焦った。

 どう言ったら正しく伝わるんだ?

 かっこいいと思うのは本当だけど、決してそんな目で見てるわけじゃなくて…

 椎が、俺を見つめたまま聞いてくる。

 「俺とどっちがいい?」

 俺は、かあっと熱くなって叫んだ。

 「そ、そんな下らない質問、却下だっ!!」

 なんで自分の親と自分を天秤にかけさせるんだよっ。

 まったく、怒るのもばかばかしいくらいだっ。

 「冗談だよ」

 椎が、体を寄せて俺を抱きしめてくる。

 「…バカな質問するなよ」

 俺も抱きしめ返すと、

 「ごめん」

 椎が言い、俺の唇に自分の唇を寄せて合わせてきた。

 その時、呼び鈴が鳴った。

 椎が名残惜しげに離れて、

 「誰だよ」

 鬱陶しそうにそう呟いてから「はい」インターホンに出ると、

 「俺だ」

 ぶっきらぼうな感じで、ちょっと偉そうな声が聞こえてきてハッとした。

 口調がだいぶ違うけど、この声は昼間聞いた声だ。

 …先生?

 そう思うのと同時に、画面に映った顔を見て椎が驚きの声をあげた。

 「親父!?」

 来訪者は、やっぱり先生だった。

 椎が玄関に行ってドアを開け、応対している。

 「何しに来たんだよ」

 「新婚さんの生活ぶりを見てみたくて」

 先生が楽しそうに言って、居間で聞いていた俺は、噴いた。

 ガチャン。ドアが閉まる音がし、次いで先生の「おーい」という声がする。

 どうやら椎に閉め出されてしまったらしい。

 一瞬の間の後に、再びドアの開く音がし、椎の不機嫌そうな声が聞こえる。

 「…殴るぞ」

 俺は、二人の会話に気恥ずかしさと笑いを堪えながら、先生が入ってくるのを待った。

 玄関先で、なにやらやりとりしていた二人は、やがて中へと入ってきた。

 「やあ、服部君」

 先生が俺を見て微笑む。

 「昼間はごちそうさまでした。どうしたんですか?」

 「ん。昼間は固い話ばかりして、服部君に私のいいところを見てもらえなかった気がするから、純粋に遊びに来たんだ」

 先生が、白い大きめの箱を差し出す。

 「これお土産。みんなで食べよう」

 「ありがとうございます」

 先生に渡された箱は、どうやらケーキのようだった。

 ケーキなら、緑茶じゃなくてコーヒーか紅茶だろう。

 「玲二は座ってていいよ。俺がやる」

 「いいよ。俺がやるから」

 台所へ行き、ケーキをテーブルに置いて皿を出す。

 「俺やるのに。こんな見慣れた顔と一緒にいてもしょうがない」

 俺は椎のたたく憎まれ口に苦笑いを浮かべながら、先生に聞いた。

 「先生、コーヒーか紅茶、どっちがいいですか」

 「私は、ビールかワインがいいな」

 それを聞いて、椎が声を荒げる。

 「今日、車だろっ」

 「そうだけど」

 肯定する先生に悪びれる様子は微塵もない。

 「玲二、コーヒーでいいから」

 「…うん」

 食器棚からコーヒーカップを取り出して、フィルターと粉をセットし、ドリップ式のコーヒーを淹れる用意をする。

 「固い話って、何の話してんだよ。またペラペラとあることないこと喋ったんだろ?」

 「あることあること喋ったんだよ。ね、服部君」

 先生が振ってきたが、もうなんて答えていいか分からなくて笑うしかない。

 「ったく、恋人と別れてから暇でしょうがないんだな。こんなとこまで来るなんて」

 「あ、それは言わない約束だろ。傷ついてんだよ、これでも」

 先生、恋人と別れて、今は独り身なのか…

 なんか生々しい話に、手を動かしながら思わず聞き耳をたてる。

 先生が持ってきてくれたケーキを皿に乗せていると、椎が思いついたように言った。

 「そうだ。親父、ピンポンやろう」

 え。

 そう言い出した椎に目をやると、早速ゲーム機の電源を入れて、リモコンを先生に渡している。

 それを見ながら、俺は密かに喜んだ。

 もしかして、今日はピンポンやらなくて済むかも。ラッキー。

 二人は、テレビの画面を見ながら、それぞれのキャラクターを選び始めた。

 「あ、これって服部君…?」

 先生が、椎の作った俺のキャラクターを見て聞いてくる。

 「…そうですけど」

 分かってますよ。三割増しでかっこいいんでしょ。

 「似てるだろ?」

 俺が心の中でちょっといじけていると、そんな俺の気持ちになど思いも寄らないようで、椎が得意げに言う。

 先生が大きく頷いた。

 「ああ、似てる」

 あれ、本当に?

 「上手いもんだな。俺も作ってくれよ」

 「しょうがないな。次来るまでに作っとく」

 そんなことを話しながらのキャラクター選択が終わると、椎がゲームをスタートさせた。

 俺は少し近寄って、ソファの後ろからテレビ画面を眺める。

 「俺は初めてなんだぞ。ハンデはないのか?」

 「セクハラ親父にハンデなんかあるか」

 椎がきっぱり言い切り、先生はなんのことか分からないようで、

 「セクハラ?」

 首を捻った。

 聞いていた俺が、気づいて恥ずかしくなってくる。

 それから先生は思い当たったのか、「ああ」と呟いて笑った。

 「厳しいなぁ。冗談なのに」

 「冗談は過ぎると面白くない、ぞっと」

 椎が、台詞に合わせてサーブを打ち込む。

 「悪かった、なっと」

 先生が応えるように言って返す。

 その後、すぐに激しいラリーに突入し、最初こそ先生が押され気味だったが、

 やがて慣れてきたのか、いい勝負をするようになってきた。

 見ていて俺はびっくりした。

 なんて上達が早いんだ。そして…

 なんてかっこいい父子なんだっ。

 俺は、生き生きとした表情で真剣に対戦する二人を、横から見ながら思った。

 二人とも背が高くてスラッとしてて足は長いし、動きにキレがあって、仕草の一つ一つが決まってる。

 信じられない遺伝子だな。

 やる時はなんでも熱中してやる性質同士らしく、二人から熱気のようなものが部屋に溢れるのを感じる。

 ラリーの方も信じられないくらい長く続き、

 相手がバランスを崩した少しの隙を狙ってスマッシュを決めようとするのだが、

 どっちも上手い具合にまた安定を取り戻し、ちっとも勝負がつかない。

 どんだけ続くんだ、これ。

 俺は観客の役割のようなので、見ていないといけないみたいだが、さすがにちょっと動きたくなってきた。

 やかんのお湯が沸いてシュンシュン言ってるし…ちょっとぐらいいいかな、動いても。

 ソファを離れて、火を止めに行こうとした途端、椎が打ち込まれてあっけなく試合が終わり、奴が振り返って大声で喚いた。

 「玲二が動くからっ!!」

 「お、俺のせいっ!?」

 「玲二が見てなきゃ意味ないんだよっ!」

 俺は、口をパクパクさせた。

 そ、そんなこと先生の前で言わなくっても…!

 恥ずかしいだろっ!

 「ハハッ、ハハハハッ」

 先生が、息を乱しつつ声をあげて笑う。

 「いや、ちょうど良かったよ。さすがにもうやめたくなってたんだけど、意地になっちゃって…はあ、結構運動になるね」

 初めてのことで力が入っていたのか、肩で息をする先生に対して、椎は慣れているからか、全然平気そうだった。

 「若い人には敵わないね」

 それを聞いて、椎が不満そうにする。

 「勝っといてそんなこと言うんだからな」

 その後も、

 「かっこいいとこ、見せたかったのに」

 小さな声でぶつくさ言っている。

 俺は笑った。

 十分かっこよかったと思うけど。

 その後、みんなでケーキを食べながら、喋る。

 先生の口数の多さは椎に負けてなくて、今日一日で俺の中の先生のイメージはだいぶ変わった。

 落ち着いた大人っぽい人かと思っていたら、実はそうでもないし多弁な人だったんだと知る。

 「また来るから」

 先生が帰り際に、玄関で振り返ってそう言うと、椎が、先生を蹴る真似をして、

 「来んな。セクハラ親父」

 手でしっしっと追い払うようにする。

 そんな椎の言動など気にしない様子で、先生は椎越しに俺を見た。

 「じゃあね、服部君。良い夜を」

 ニッと笑いながらそんなことを言われて、思わず固まる。

 よ、良い夜を…って…

 「さっさと帰れーっ!!」

 椎が今度は本当に先生に向かって蹴りを繰り出し、先生は間一髪でそれを避けて、

 素早い身のこなしでドアの向こうに消えた。

 椎が鍵をかけて戻ってくる。

 「もう次の暗証番号教えてやらねぇ」

 ムッとしながらそう呟くのを聞いて、笑う。

 暗証番号は定期的に変わるので、その都度教えないと上がってこられないのだ。

 「そう言えば、友達に会ったんだろ?どうだった?」

 椎が俺の顔を見て、話を切り替えた。

 「うん。元気だった。アメリカ人の彼女ができて、今度、里帰りする彼女に同行するって言ってた」

 「ヘぇ。なかなかやるな」

 山田、椎に誉められてるぞ。

 「そうだ。コンサートのチケットもらったんだった」

 俺は思い出して、鞄のところへ行き、チケットを取り出して椎に見せた。

 「一緒に行こう」

 奴が寄って来て、俺の手のチケットに手を伸ばす。

 てっきりチケットを取るのかと思ったら、手首を掴まれた。

 そのまま引き寄せられて、唇を塞がれる。

 「んっ…」

 もう一方の手首も掴まれて、チケットが手から落ちた。

 「ちょっ、し…」

 突然のことに驚いていると、舌が入ってきて俺の歯列をなぞり、探るようにして俺の舌を絡め取る。

 椎が、俺の足の間に自分の右足を割りいれ、太ももで俺の股間を持ち上げるようにぐりぐりと押した。

 「んんっ」

 前も後ろも一緒に押されて揺らされ、だんだん下半身が気持ちよくなってくる。

 でも、俺は唇が離れたタイミングを見計らって、椎の体を押して離した。

 息が乱れて、体の芯が疼いてるけど、理性を働かせてなんとか抑える。

 「椎…、まだ早いって」

 俺はまだ寝たくない。風呂も入りたいし。

 「だって、したいんだ」

 椎が俺を抱きしめて、自分のモノを俺の体に押し付けるようにしてくる。

 それが大きくなっているのは分かってたし、俺のも今の刺激で半勃ち状態だ。

 「なんで急にしたくなってんだよ」

 俺が眉間にしわを寄せて聞くと、奴は目を逸らして俯きがちに言う。

 「玲二が親父にからかわれてんの見たり、今日友達とたくさん喋ったんだなと思ったら、なんか我慢できなくて…」

 やっぱ焼きもち焼いてんだ。

 山田には彼女がいるって言ってんのに。しかも先生にまで…

 かっこよくて焼きもち焼く必要なんて全然ないのに、なんでこんなに焼きもち焼きなんだろう。

 俺は、ふーっと息を吐いた。

 しょうがないなぁ。

 「分かった。今から風呂入って、それからしよう」

 俺が妥協して言うと、椎は甘えた目で見てくる。

 「風呂でしたい」

 俺は笑った。調子に乗んなよ。

 「風呂は嫌だっつってんだろ」

 以前風呂でしたとき大変だっただろうに、懲りないやつだ。

 それがなくたって、俺はやっぱりなんとなく風呂では嫌なんだよ。

 遠まわしに却下してんのに、椎が、気を取り直したような表情をする。

 「玲二が寝てもいいように、最初から全部準備して、今日は髪も洗わない。それならいい?」

 「そういう問題じゃない」

 「むちゃくちゃ嫌ってわけじゃないんだよな?じゃあ用意する」

 椎は、全然了承などしていない俺を尻目に、勝手にそそくさと動き始めた。

 だから、人の話を聞けって。

 風呂のドアの前にバスタオルを何枚か用意して置く。

 それから、前開きのパジャマを出してきて、それをベッドの上に広げて、俺を乗せてすぐ着られる状態にした。

 なんか俺、やっぱり介護される人みたいだ。

 準備を終えると、

 「玲二、先に入ってて」

 そう言い置いて、椎はトイレに向かった。

 準備万端にしての『今からします』感溢れるこの空気はなんだろう…

 密かに溜息をついてから風呂に行って脱衣所で服を脱ぎ、先に湯船に浸かっていると、

 椎が料理に使うステンレス製の大きなボールを持って入って来た。

 中には飲み物用の角氷がたくさん入っている。

 椎はそれを、バスタブの横に置いた。

 「なんだよそれ。何するんだよ」

 またお前は、何か良からぬ事を…

 俺が急速に不安になっていると、椎がかけ湯をして湯に入ってくる。

 「玲二すぐにのぼせそうだから…」

 俺と向かい合う格好で、横の氷に手を伸ばし一掴み取ると、

 「こうするんだよ」

 俺の胸に押し付けた。

 「ギャッ!ひっ、冷たっ」

 ぎゅっと押し付けられて暴れると、椎は楽しそうにした。

 心臓麻痺で死ぬだろうがっ。

 その表情にムッとして、俺も氷を掴む。

 同じように押し付けてやると、

 「うわっ、はははっ」

 大笑いして、俺の手を退けようとし、水が大量に跳ね飛ぶ。

 湯に入った氷は、水面にプカプカと浮きながら、ちょっとずつ小さくなっていく。

 それを押し付けあっているうちに、湯がだいぶ冷めてしまい、

 「冷め過ぎ」

 椎が、追い炊きボタンを押した。

 「お前は何がしたいんだ。雪合戦ならぬ氷合戦?」

 俺が聞くと、椎は笑って

 「これはこれで楽しいけど…本当はこんなことがしたいんじゃないんだ」

 そう言って、ボールの氷を一つ取って手に持ち、俺の方へ身を乗り出してきた。

 「落としちゃ駄目だよ」

 真面目な表情になって至近距離でそう言うと、氷を口に入れ、

 「渡すから、返して」

 そのまま俺の唇に自分の唇を重ねた。

 ひんやりした舌と氷が差し入れられ、俺の舌と絡まる。

 口の中で氷が溶けていっているからか、いつものキスより瑞々しい感じがする。

 瑞々しい、というよりは、水っぽい…

 俺は入って来た氷を、舌を使って椎の口の中に押し戻した。

 「ん…、ふ…っ」

 舌と舌の間で行き来させて、一つの飴を二人で舐めあうようにするうちに、

 口の中に水が溜まってきてそれをゴクリと飲み込む。

 椎が手で俺の乳首に触れてきた。

 親指の腹で表面を擦るようにされて、

 「んっ」

 ビクッとして、眉根を寄せる。

 ひざを立てている俺の足の間に自分の足を入れて、椎が体を寄せてくる。

 ぐっと腰を引き寄せられて、俺のモノと椎のモノが密着した。

 硬くなっているそれが押し付けられると、すごく感じる。

 「あっ」

 その感触に声をあげると、舌と舌の間にあった氷が落ちた。

 落ちた水面でポチャンと水が跳ねる。

 椎が唇を離して、

 「落としちゃ駄目だって」

 ボールからまた一つ取って自分の口に放りこんだ。

 だって、感じるんだからしょうがないだろ。

 それから俺を自分の上に乗せるようにする。

 座る椎の上に俺が乗っている状態になり、俺の後ろに奴のモノがあたる。

 椎が冷たく水気を含んだ口を、俺の首筋に這わせ、胸の突起に辿りつくとそれを唇で挟んで舌でちろちろと舐めた。

 「あっ、んっ」

 口の中で舌と氷を使って、乳首を舐められると、その刺激が、椎のモノがあたっている後ろに来て、たまらなくなる。

 椎の腹に当たっている俺のモノも硬くなってピクピクと震える。

 「は…あ、椎…冷たい」

 「嫌?」

 俺は首を横に振った。

 これは嫌じゃない。

 「気持ちい?」

 「ん…」

 椎が俺の尻に手を伸ばし、後ろのすぼまりに指をあてがう。

 力を込めて、ゆっくりと挿入してくる。

 「あ…」

 湯の中でそこを押し開かれる感覚に、しがみつくと

 「玲二…」

 また唇を合わせてきた。

 椎の口中には氷があって、俺はすぐに唇を離した。

 椎が少し驚いた顔をする。

 「なに?」

 「それ、嫌だ」

 「それって、…氷?」

 乳首のときはいいけど、それがあると、お前の舌を思いっきり吸えないし、お前の舌に舌を思いっきり絡められない。

 俺が頷いて、でも理由はなんとなく言えなくて黙っていると、椎が俺の顔をじっと見つめてから、

 洗い場の方に顔を向けて、口の中のそれをプッと噴いて出した。

 「これでいい?」

 そうしてまた唇を重ねると、椎が思いっきり舌を吸ってくる。

 俺も負けじと思いっきり舌を絡めた。

 「あ、んっ、ん…ふっ、んっ」

 これでもかという感じで、舌も唇も吸われて、体が痺れたようになってくる。

 指を入れられたそこが熱くて、

 「はあ…ああ…」

 どんどん息遣いが荒くなる。

 離れかけた唇をまた塞がれて、湯の中で指が奥まで入れられ、やがて出し入れされるとたまらなくなる。

 「んっ、んっ」

 椎が指を増やす。

 広げられたそこに湯の熱さを感じた。中が、椎の指を締め付ける。

 椎にしがみついていた俺は、唇を離した。

 「あっ、もう、ああっ」

 椎のモノが欲しい。

 椎が指を抜いて、湯船の中で立ち上がる。

 それから俺も立ち上がらせて後ろを向かせると、腰を引き寄せ、後ろのそこに自分のモノを押し当てた。

 「我慢できない。後ろから、いい?」

 椎はそう聞いて、俺がバスタブの縁を掴み、早く欲しくて腰を心持ち突き出すようにすると、ぐっとそれを突き入れた。

 「んっ、あっ」

 湯であたたまり、ほぐされたそこに、椎のモノが押し入れられる。

 椎が俺を後ろから抱きしめながら、腰を動かしてぐっぐっと奥へ進める。

 「中、熱くて蕩けてて柔らかくて、めっちゃ気持ちいい」

 自分の胸を俺の背中にくっつけて来て、頬を首筋に押し付けながらそんなことを囁き、前に回した手で俺のモノを握る。

 「んっ、んっ、ああっ」

 気持ちよくて、先端から露が溢れ出るのが分かった。

 「玲二もいい?やらしいのがいっぱい出てる」

 椎が手を動かして、鈴口の辺りを弄びつつ俺のモノを扱く。

 「あっ、ああっ」

 前と後ろを同時に攻められて、ものすごく感じていると、椎が前かがみの姿勢の俺を、

 空いた方の手を胸の前に回して引き寄せ、まっすぐ立たせた。

 俺の手がバスタブの縁から離れる。

 「玲二と繋がってると思ったら、すっげぇクる」

 椎が耳元で呟いて、後ろを自分のモノで突き上げながら、俺のモノを扱き、空いた手で乳首をキュッとつまんだ。

 その刺激に、後ろが締まって、また先走りが溢れ出る。

 「あっ、ん…マサ、ユキ…」

 突き入れられるその動きに合わせて快感が押し寄せ、イきそうになる。

 「う…っ、あぁっ」

 椎が後ろから、

 「玲二」

 俺を呼び、顔を寄せてキスをしようとしたが、首を回すのはきつくて完全に唇を合わせるのは無理だった。

 どちらからともなく舌を出して、舌先を滑らせ合う。

 「あ…あぁ…イくっ」

 俺は感じて来て仰け反り、椎のモノを強く締め付けながら吐精した。

 奴も達して、自分の液を奥まで残らず届かせようとするように、イった後も数回腰を打ちつける。

 それから俺を抱きしめながら、椎がゆっくりと腰をおろして、

 俺が奴の上に背中を向けて座って乗る形で、また湯船に浸かった。

 「玲二…寝る前に俺が今一番聞きたい言葉、言って」

 「……」

 椎が耳元で囁き、俺が黙っていると、後ろから俺の肩に顎を乗せて、覗き込むようにしてくる。

 「早く」

 急かされても、なかなか自分からは言えない。

 「じゃあ、愛してるって、寝るまでに百万回言って」

 それ、無理だから。

 だって、もうどんどん眠気が層のように俺の中に重なって、厚みを増していっている。

 それでなくても、百万回って…

 「むちゃ言うなよ」

 「じゃあ、心の中でもいいから、眠りにつくまで言って」

 俺を抱きしめる腕に、力がこもる。

 「…うん」

 俺は、了承して、目を閉じた。

 その言葉を心で呟きながら、先生との会話を思い出す。

 俺は確かに椎のことが好きで、傷つくことがあるかも知れなくても、これからも椎のそばにいる。

 今日気づいたけど、先生に頼まれたからでなく、俺はもう前からそのつもりでいたんだ。

 「椎…」

 「ん?」

 「愛してる」

 病めるときも、健やかなるときも、俺はお前と一緒にいる。

 ちょっとだけ間があって、少し震えているような声の椎の返事が聞こえてくる。

 「俺も…」

 俺を抱きしめる腕に、さらに力がこもるのを感じた後、俺は深い眠りに吸い込まれていった。

 

 

                                       了                                     

 2010.03.27

 

 

 

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