ライク ア バトル2


 店の外に出ると、俺は煙草を取り出して、火をつけた。

 見張り付きとはね…

 呆れ気味にそう思ったが、彼氏が全力でママを守りたくなる気持ちはすごく分かるような気がした。

 好きな人に手を出されるのは、腹が立つものだ。

 特にあんなに綺麗なママなんだし、俺も彼氏で権力があったら、見張りくらいつけるだろうなぁ。

 ママの彼氏に激しく共感しながら、一服して、歩き出そうとしたら、

 ドアが開いて中からさっきの男が出てきた。

 「ちょっとあんた」

 呼び止められて、足を止める。

 いちゃもんをつけられるかと思って、その男を見返し、睨んだ。

 「なんだよ。俺はママに手なんか出してねーぞ」

 すると、男は首を横に振った。

 「そんな話じゃない。俺、ちょっといいモン持ってんだけど、買わねぇか?」

 「あぁ?」

 どうやら、小遣い稼ぎがしたいらしかった。

 「何持ってんだよ。いくらだよ」

 聞くと、男はニッと気味の悪い笑みを浮かべた。

 「媚薬。意識もぶっ飛ぶ、すっげぇ効き目だぜ」

 俺は、指を一本立てる男の顔を、

 質の悪いモンを高値で売りつけられるんじゃないかと警戒してジッと見た。

 奴が、ちょっと気後れしたように眉を寄せる。

 「姐さんの客に変なモン売らないよ」

 「あ、そ」

 ま、パチンコだって摩る時はあっと言う間に数万摩るんだし、遊びで買ってみるか。

 「これっきりだからな」

 俺は、財布から金を出してそいつに渡し、そいつの差し出した『媚薬』を受け取った。

 男がニッと笑う。

 「毎度あり」

 ひょこひょこと腰を低くして歩きながら、店の中へと戻っていく後ろ姿を見送ってから、

 手の中のものに目をやった。

 病院で処方される、粉薬を思わせる小袋。

 あんな男から買ったということもあって、麻薬が連想されたが、ま、それはないか、と笑った。

 効果のほどは分からないし、値段が値段だから、

 あんまり期待もできないけど、媚薬なんて初めてだ。

 今夜、四朗に使ってみよう。

 俺は、それをポケットにしのばせると、家に向かって歩き出した。

 

 夕飯の用意をして四朗の帰りを待つ。

 媚薬を使用してのエッチを妄想して、高揚してくる気持ちを抑えつつ待っていると、

 やがて四朗が帰ってきた。

 「ただいま」

 普段の四朗もかわいいが、スーツ姿の四朗は、かっこよさもプラスされていて、すごくいい。

 俺がスーツを着るような仕事に就いたことがないから、なんかこう憧れみたいな気持ちも働いて、

 ウズウズしてきて、すぐにでも押し倒したい気分になる。

 「お帰り。飯できてるから」

 どうにも媚薬の効果が楽しみで、いつもはそんなことしないのに玄関まで出迎えて、

 いつもは言わないことをわざわざ口にしてしまう。

 顔が勝手に綻んで来て、それを見た四朗が、眉間にしわを寄せて、

 「なんかいい事あったのか?」

 ちょっと気持ち悪そうにして呟き、靴を脱ぐと、上がって中へと進んだ。

 温めるもの以外は、もうテーブルに並べて用意してあったので、

 スープを温めて、急須にお湯を注いでお茶を淹れた。

 四朗の湯呑みに、こっそりと媚薬の粉を振り入れ、念のためにスプーンでかき混ぜて溶かす。

 隣の部屋で、トレーナーとジーンズに着替えてきた四朗が、椅子を引いて、席についた。

 俺は、奴の目の前に湯呑みを置く。

 四朗がそれに手を伸ばし、口の中を潤すように一口含んでから飲み込んだ。

 「飲んだっ!!」

 思わず頭の中で、叫ぶ。

 すると、すぐに四朗が顔を歪めた。

 「うえっ」という感じで、舌を出す。

 「何このお茶、マズい」

 「え。ほんとに?なんでだろう」

 「さあ。でも、いつもと違う。ヤっちゃん、飲んでみてよ」

 そう言って、目の前に湯呑みを差し出され、俺は慌てて手を振った。

 「い、いやいいよ。マズいんなら、捨てようか。

 俺、淹れなおすよ。おかしいなぁ、いつもと同じなのに」

 畜生、一万払ったのに、ろくに飲まないうちに廃棄かよ。

 と思いつつ早口でそう言って、四朗の手から湯呑みを取ろうと手を伸ばすと、

 奴はそれをよけてもう一度言った。

 「捨てる前に、飲・ん・で・み・ろ」

 「う…」

 強い口調で言われ、俺は黙った。

 そんなわけないのに、見透かされているようだ。

 バレてるのか?

 いや、普通に生活してる人間が、飲み物に媚薬を入れられるなんて、まず思わないだろう。

 しょうがなく、俺は目の前に差し出された湯呑みを手にした。

 まだ今なら「一服盛りました。ごめんなさい」と白状して謝ることも出来る。

 頭の隅でチラとそう思ったが、でも謝りたくなかった。

 効くかどうかも分からない代物なのに、謝るなんてバカバカしい。

 もうなるようになれっ。

 俺は、心でそう叫ぶと、湯呑みの中身をグイッといった。

 入れ過ぎただろうか、確かに味が変わっている。

 だいたいどれくらい入れるか、とか詳しい説明を聞いてない。

 かなりマズかったが、勢いで全部飲み干して、

 「はあ、はあ…ほんとマズいな」

 手の甲で口元を拭う俺を、四朗は呆れたような顔で見た。

 「全部飲まなくたっていいのに…。な?マズいだろ?」

 「ああ」

 俺は、その湯呑みを手にシンクの方へ行き、洗って綺麗にした後、

 新しいお茶を注いで、四朗に渡した。

 「あ、今度は大丈夫」

 一口飲んで奴が、安心したようにそう呟いて、飯を食べ始める。

 俺も同じようにして、飯を口に運んだが、だんだん体が熱くなってきた。

 飯を食ってるせいなのか、媚薬のせいなのかは分からない。

 ただ、食い終わるころには、酒を飲んだように体が火照ってたまらなくなっていた。

 心臓もドキドキして、煩いくらいだ。

 ここまで来たらもう、これは、明らかに媚薬の効果に違いなかった。

 体の熱を吐き出すような息遣いの俺を見て、四朗が怪訝そうにした。

 「ヤっちゃん?」

 「あ?」

 「どうした?具合悪い?」

 聞かれて、俺はまだ少し飯の残った茶碗の上に箸を置き、

 立ち上がってベッドまで歩き、そのまま倒れ込んだ。

 駄目だ、体熱い。

 どうしようもない疼きが、体の芯に生まれては溢れてくる。

 この疼きを、熱を、吐き出したい。

 このままでは苦しくてたまらない。

 「ヤっちゃん」

 四朗が、ベッドに寄ってくる。

 「さっきの、なんか入れた?」

 聞かれて、どうしようか迷ったが、今ここにいるのは四朗だけで、

 とにかくどうにかして欲しくて、すがるように打ち明けた。

 「媚薬」

 それを聞いて、四朗が目を丸くする。それから苦笑して、

 「ったく…」

 ふうっと息を吐くと、唇を合わせてくる。

 「んっ!」

 それだけでものすごく感じて、俺の体はビクッと揺れた。

 舌が差し入れられて口の中を舐められ、舌を吸われたら、頭の中がスパークする感じで、

 「んん」

 涙が出そうになる。

 エッチのときは、いつも俺から攻めるのに、今は感じすぎて、そんなこととても出来そうにない。

 唇が離れると、四朗が笑って言った。

 「ヤっちゃんは、分かりやす過ぎるんだよ。明らかに怪しかったもん。

 あれじゃあ警戒されてもしょうがない」

 どうやら見抜かれていて、四朗は媚薬入りのお茶を、飲んだフリをしたらしい。

 悔しかったが、今のこの状態ではどうすることも出来ない。

 感じすぎるので触られたくないけれど、体は熱を吐き出したがっている。

 「攻めてこないヤっちゃんって、新鮮だなぁ」

 言いながら、四朗が俺の上に乗った。

 「や…四朗、何する気…」

 「体、疼くんだろ?」

 面白そうに言うなり、四朗が俺の服を捲り上げる。

 胸に顔を寄せ、突起を口に含まれて、

 「ハッ、あっ」

 俺は身を捩った。

 乳首はあっという間に硬く尖り、舌で転がされるとたまらない気持ち良さが体を駆け抜けた。

 頭では、四朗にいいようにされることを嫌がっているのに、

 体は気持ちよくてイかせて欲しいと望んでいる。

 キスと乳首への刺激だけで、いや、実はキスをされただけの段階で、

 すでに俺のモノはビンビンに勃ち上がっていた。

 四朗が俺のズボンの中に手を入れて、それを握る。

 「すごい。もうガチガチ」

 「う、離せ…っ」

 俺は四朗の手を跳ね除けようとしたけれど、

 それを見た四朗がもう一方の手を乳首に伸ばしてキュッと押してきて、

 それだけで体がビクッとしてしまって体から力が抜けてしまって無理だった。

 そのうちに、四朗の手が握ったペニスを上下に扱き始めて、快感が背筋を駆け抜け、

 それを数回繰り返されただけで、

 「んっ、…うっ」

 俺は射精してしまった。

 「え、もう?」

 四朗が驚きの声をあげる。

 いつもよりずっと早い。

 自分でもちょっと信じられないくらいだったが、確かにイった証拠に、

 四朗の手に、白濁がかかっている。

 でもって、イッたにもかかわらず、俺のモノは、萎えていなかった。

 「イったのに、まだガチガチって…」

 四朗が驚いた表情のまま、そう呟いて、おもむろに立ち上がると、

 タンスに寄って引き出しからローションを取り出した。

 「お、おま…何を…」

 それを見て血の気が引く。

 あれを使わなきゃならないことって…

 焦る俺のズボンと下着を、四朗が引き降ろす。

 背を向けて逃げようとしたら腰を掴まれ、

 「うわあ」

 もう全身性感帯のようになっていた俺の体は、むちゃくちゃ感じて、

 そのままクタッとベッドの上に突っ伏してしまった。

 ローションの蓋を開ける音がして、動けないでいる俺の後ろに指があてがわれるのを感じる。

 次の瞬間には、その指が押し入れられた。

 異物が入ってくる感覚は、嫌な感じで、

 「あ…うう…てめっ、クスリが切れたら…覚えてろよっ」

 ムカつきながら叫ぶけど、体は指を受け入れていく。

 「自分が俺にやろうとしてた事だろ。媚薬使って楽しもうと思ってたんだろ?」

 そうなんだけど…

 俺が口を噤むと、四朗が指をさらにグッと進めて、

 「んっ」

 背筋が反った。体全体がびくびくと震える。

 くっそ、四朗め。戻ったらただじゃおかないからな。

 心の中で悪態をつくけれど、体は悦んでいるようで、先走りがどんどん溢れてきていた。

 ぐいっ。

 四朗が指を曲げて、俺の中の感じるところを擦りつつ押してくる。

 「うあっ、ハッ」

 またイってしまいそうな感覚に襲われて、ギュッと目を瞑った。

 すると、指が引き抜かれて、四朗がジーンズのファスナーを降ろす音が聞こえ、

 代わりに四朗のモノがすぼまりに押し付けられるのを感じた。

 俺は、焦って後ろを振り向いた。

 「ちょっと待てっ。ほんとに挿れるつもりなのかっ!?」

 「だって俺、ヤっちゃんと繋がりたい。ヤっちゃん、今は自分からは無理でしょ」

 「他にもやり方はあるだろっ。お前が乗るとかっ」

 四朗は一瞬ムッとした顔をして、それから笑った。

 「イヤだね。俺、前からヤっちゃんに挿れてみたかったんだ」

 それを聞いて、ギョッとする。

 前から、ってどのくらい?ひょっとして初めから?

 「なんか最初っから、俺が挿れられるのが当たり前みたいな扱いだったけど、俺だって男なんだから」

 その積年の想いを、この後の行為にぶつけるってことですか?

 「や、やめっ」

 懇願の目で奴を見たが、その不敵な表情のまま四朗が、

 「ここでやめるなんて、ヤっちゃんも嫌だろ?」

 俺を見下ろして、聞いてくる。

 「……」

 ヤられるのだって嫌だ。けど、放っておかれて、ずっと疼きを堪えるってのも耐えられそうにない。

 とにかく早く、クスリが抜けて欲しいけど、そんなにすぐには抜けそうにもない。

 「じゃあ、行くよ」

 四朗が言って、自分のモノを押し入れてくる。

 「うあっ、いてっ、いてて、痛ぇって!」

 その強烈な痛みと、中が開かれていく感覚に喚いたが、四朗は構わず奥へと進めた。

 グッグッと一定のリズムで、中を探るようにしながら、押し入ってくる。

 「うおっ、もうやめ…っ。あっ、…バカヤローっ」

 なんか目の前がチカチカして、俺は自分が言われて一番嫌な言葉を、

 だから人に向かっても口にしない言葉を、思わず口にしていた。

 四朗がふっと苦笑する。

 「ヤっちゃん…もうちょっと色っぽく啼いてくれないかなぁ」

 そんなの知るかっ。痛ぇ。痛ぇんだよっ。

 媚薬のせいで感じるから、ちょっとは痛みも和らいでるのかも知れないけれど、それでも痛かった。

 目尻に涙が滲む。

 「俺の気持ち、分かった?」

 聞きながら、四朗が力を込めてズンッと突いた。

 「うわぁっ」

 目の前がショートする。脳まで駆け上がる痛みと苦しさの混じった感覚。

 「うう」

 俺が呻いていると、四朗は様子を窺うように動きを止めた。

 それから、自分のモノを少し引き抜いて、また挿れる。そして、また引き抜く。

 「う…あっ、あっ」

 それの繰り返しで、次第に抽挿がスムーズになって来ると、擦れあう時に、

 俺の体はちょっとだけ気持ちよさのようなものを感じるようになってきた。

 媚薬の効果も手伝ってか、慣れてきたら、痛みより快感の方がどんどん強くなってくる。

 「あっ、んっ、あっ」

 「ヤっちゃん、よくなって来た?」

 「バ、バカ。そ…んなことあるかっ」

 と言いながら、なんでか自分から腰を振ってしまう。

 「ハッ、んっ、四朗…」

 頭が痺れて、なにも考えられなくなる。

 「ヤっちゃん、すごくいいよ」

 四朗が後ろから突き上げながら、俺の胸に手を伸ばし、乳首をキュッと押し潰すようにした。

 「あっ!」

 痛(いた)気持ちいい感覚が駆け抜け、体が大きく反応して、俺はまたイってしまった。

 挿れられた後ろが四朗のモノを締め付ける。

 「うっ。ヤっちゃん。俺、もう」

 四朗の言葉が聞こえて、俺の中で、奴のモノが脈打つのと同時に、熱い体液を吐き出すのを感じた。

 

 その後も、俺は火照った体を抑えられなくて、不本意ながら四朗に数回抱かれた。

 四朗も、抱く側の気持ちよさにすっかり目覚めてしまったようで、

 俺をいいように弄っては射精させ、自らもイっていた。

 イってもイっても、俺のモノは勃ちっぱなしで、あちこち超敏感になってるし、

 自分の体はこのままどうかなってしまうんじゃないかと心配になったが、それも次第におさまってきた。

 

 クスリが抜けた後、四朗が出勤して一人になった部屋で、煙草を吸いながら、

 「ふぅ」

 と溜息をつく。

 

 これからエッチの度に、上位争奪戦が起こるかも知れないと考えると、先が思いやられる。

 これまでだって、俺の浮気が元でけんかして、バトルのようになりがちだった四朗とのセックスが、

 さらに白熱したものになることが予想された。

 でも、媚薬さえ体に入ってなければ、四朗を押さえ込むのなんざ、簡単だ。

 そういつもヤられてたまるか。

 と思いつつ…

 抱かれているときの感覚が体の芯に残っていて、

 あれをもう一度味わいたいと思っている自分がいることにも、俺は気がついている。

 記憶が曖昧だが、最後の方には恥ずかしい喘ぎ声をあげながら、善がっていたような気もする。

 「……」

 厄介だよなぁ。

 俺は煙草の煙と共にまた嘆息して、心に誓った。

 

 もう二度と、媚薬なんか買わない。

 

 

                               了

 

ヤっちゃん、…もう遅いって^^
 
2010.11.23

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