種蒔き
雅がうちへ来て、テレビを見ている。あたしは、その横で本を読んでいた。
次第に雅がもたれかかって来た。本を読みつつ、負けじと押し返す。
と、もっと強く押して来た。ぐぐぐ…。
やめんかいっ。
雅の下を逃れると、雅は転がったまま笑っている。あたしもしょうがない奴と思いながら苦笑する。
それから、しばらく会話のない時間が続いた。
雅はせんべいを派手な音をたてながら頬張りつつ、テレビを見て笑っている。
本を読んでいたあたしはトイレに立った。戻って来ると、雅がいない。
帰った…?わけないな。何も言わずに帰る筈ない。
「雅?」
呼ぶと、庭の方から返事があった。行ってみると、庭の一角でしゃがみこんでいる。
「何してんの」
「花の種蒔いてんの」
「そんなもん、自分ちに蒔けばいいでしょーが」
聞いてんのか聞いてないのか、もくもくと種を蒔いている。
あーあ、下らない。と、思って部屋へ戻ろうとした時、雅が言った。
「だって、うちには一緒に花を見てくれる人なんていないもの」
……。
あたし、袋から種を出して、雅のあけた穴に落として行く。雅が上から土をかける。
「無事に咲くといいね」
「うん」