本好き


 

久しぶりに、面白い本に出会った。放課はもちろん、授業中も先生に隠れて読んだ。

帰り道(徒歩約二十分)も歩きながら、時には車にクラクション鳴らされながら読んだ。

あんまり面白いんで、もう雅の呼ぶ声も聞こえなかった。家に帰ってからも読んだ。

そして、やっとついさっき読み終えた。

はあ。面白かったーっ。

面白さの余韻に浸りながら顔を上げると、目の前におにぎりがあった。

別世界に入りこんでいてぽーっとした頭を、ぷるんと振って考える。

なんだろ、このおにぎりは。

よく見ると、おにぎりのそばに書き置きがあった。雅の字だ。

「あたしが話しかけても気付かないくらい夢中で読んでたので帰ります。

きっと、ごはんも食べていないと思うので、おにぎり作っときます。食べてね」

って。雅、帰ったのか。おにぎり作って、書き置き書いて?

あたし、呆然とする。全然知らなかった。…悪かったなぁ。

それにしても…丸いおにぎりだ。なにげなくおにぎりを持ってみる。途端にぼろぼろにくずれてしまった。

すごいなー、このおにぎりは。

あまりの凄まじさに感動しながらも、せっかく作ってくれたんだからと一かけ口に運んでみる。

からーっ。ぺっぺっぺっ。気持ちは嬉しいけど、何だこのおにぎりはっ。

家政婦さんが何でもやってくれる家のお嬢様はこれだから…。

あたし、自分でおにぎりを作り直して(気持ちは嬉しいんだよ、ホント)、

それを頬張りながらお茶を飲みながら、もう一度面白かった本をぱらぱらとめくる。

だけど、全然気付かなかったなぁ。雅が帰ったの。来たのは知ってるけど。

やばいなこれは。自分ちが燃えてても気付かないんじゃないだろうか。

自分で言うのもなんだけど、あたしってほんとに本が好きだからなぁ。

思えば。物心ついた時から本ばっか読んでた気がする。

そう言えば、志保子も呆れてたっけ。

あれは、あたしがまだ小学生で、この本と同じくらい面白い本に出会った事があって、

寝る前に読み出したのが止まらなかった。

あたしの部屋の電気がいつまでもついてるもんだから、志保子が「もう寝なさいよ」って言いに来て。

あたしは「うん」って返事したけど読み続けた。

しばらくして、また志保子が来て「明日でも読めるでしょっ」ってちょっと怒って電気を豆電球にして行った。

でも、あたしは、志保子が出ていったのを確かめて、閉じた本を開いて、豆電球の下で読んだ。

そんな予感がしたのか、ドアの向こう側で様子をうかがっていたらしい志保子が、

ばっとドアを開けた時は驚いたなぁ。

志保子は怒るのを通り越して呆れて、穏やかに言ったっけ。

「目が悪くなるから、もう寝なさい」

あー、懐かしい。志保子は今ごろ、シルヴプレ?なんてやってるんだろうな。

ちなみに、あたしの現在の視力。裸眼で両目とも2.0

丈夫な目で良かった。

 

     

 

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