努力


 

体育の授業で、バレーボールをやっている。今日はサーブの練習だ。

コートの外からネットの向こう側へ向かって、みんなでどんどんサーブを打つ。

たまにはミスもあるけれど、一本も入らないのは雅ぐらいだ。

体の重心を動かすコツが分からないらしく、ボールがちっとも飛ばない。

右へ反れたり左へ反れたり。手だけがだんだん赤く腫れていく。

「だから、手を振るだけじゃ駄目なの。体全体で打たなくちゃ。こう」

あんまり悲惨なので、手取り足取り教えてやる。

あたしの打ったボールは、気持ち良く弧を描いて飛んで行った。オーバーになるくらいだ。

「分かった。こうね」

あくまで真剣な眼差しで、雅が頷く。

しかし、キラキラした瞳とは反対に、ボールはやっぱり悲しいくらい飛ばない。

そのうち雅が言った。

「いいよ。あたし一人で練習するから、嬌子は自分の練習して」

でもなぁ。と思いながら眉間にしわを寄せていると、

「いいってばっ。ねっ。大丈夫、頑張って出来るようになるから」

と、明るく背中を押されてしまった。仕方ないので、雅を離れて自分の練習をした。

授業の終わりに、先生が言った。

「次の授業で、サーブのテストをします」

そっと雅を振り返ると、悲壮感いっぱいの顔をしていた。

進学校で、体育の時間が少ないせいもあって、次の体育の授業まで二日間ある。

放課になって、「練習すれば、大丈夫。きっと出来るようになるよ」

と言いに行こうと雅の方を見たら、いなかった。

それから、放課ごとに雅の姿が消えた。帰りも一緒に帰らなかった。

どこへ行って何をしてるか知ってたけど、彼女が一人でやると断言した事もあるし、

あたしに来て欲しくないらしいから、あたしは素知らぬ振りでいつも通り本を読んだ。

そして、当日。

「次、若尾さん」

「はいっ」

先生に名前を呼ばれた雅は、張り切って返事をした。

あたしは、岩城のい、で一番にテストを終えていたんで、練習もせず雅を見ていた。

少し緊張してるみたいだけど、大丈夫だろうか。

雅がボールを受け取って投げ上げる。それを右腕で思い切りよく叩く。ぼむっ。

ボールの行方を目で追う。ボールは、見事に飛んでネットの向こう側へ落ちた。気持ちのいいサーブだった。

「見た?」

自分の番が終わるやいなや、雅、あたしの方へ駆け寄って来た。

「うん。出来るようになったんだね。えらい、えらい」

あたし、雅の頭をくしゃくしゃとかきまわす。雅は嬉しそうに微笑んだ。

その日。三日ぶりに、雅が家に来た。

何故かトランプをする事になったんで、あたしは、ちょっと変わった切り方をやって見せた。

二つに割って、パラパラと交互にはさむやつだ。

それを見て、雅が叫んだ。

「わ。あたしもやりたいっ」

今。あたしは、本を読んでいる。

雅が、出来るまでやるって言ってトランプ離さないのでゲームが出来ないのだ。…はあ。

 

     

 

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