花ぬすびと 6


 

山城さんが、おもむろに口を開いた。

「『しあわせはいつも自分のこころがきめる』」

苦しそうに吐き出したのは、それもまた誰かの名言のようだった。

こんなときまで?

俺は、呆れてふっと息を吐く。

「それは、誰の言葉?」

「…相田みつをだ」

その名前には聞き覚えがあった。

 

名前から連想して思い浮かんだ言葉を口に出してみる。

「人間だもの」

山城さんが驚いて目を丸くした。

「よく分かったな」

「うん。なんか知ってた」

「そうか。偉いな」

山城さんが笑って、俺の頭をクシャクシャとかき混ぜるようにして撫でた。

 

「山城さん」

俺は、山城さんの胸に耳をつけた。

トクン、トクンという心臓の鼓動の音が心地よく聞こえてきて、目を閉じる。

こうしているだけでも、幸せだ。

この時間が永遠に続けばいい。

 

「……」

だけど、知ってる。永遠、なんてありはしない。

俺は、山城さんを見つめると、顔を寄せて唇を合わせた。

山城さんが、これ以上進む事を迷っても、俺は進む。

そう決めたとき、山城さんの手が俺の背中に回された。

その手が、優しく背中をさするようにして上下に動く。

「んっ、んっ」

 

ただ背中をさすられただけなのに、

キスの気持ちよさがそれまでよりずっと大きくなって、声が漏れた。

唇が離れると、俺を上に乗せた状態のまま山城さんが上半身を起こす。

山城さんがあぐらをかいた上に、俺が座っているような格好になった。

俺の首筋に口づけをする。

「あ…」

そして、シャツのボタンを一つずつ外しながら、唇を胸元へと這わせる。

 

やがて、胸の突起へと辿り着くと、

山城さんは唇でそれを挟み、キュッと力を込めた。

「んっ」

ものすごく感じて仰け反る。

そうして乳首に愛撫を施しながら、すこしずつ体重をかけて俺にのしかかり、

今度は山城さんが上になった。

それから、俺を抱きしめて耳元で囁く。

「敦也は細いな。小さくて細くて、壊してしまいそうだ」

 

俺は山城さんの背中に手を回して、彼を抱きしめ返した。

「山城さんは、大きいね。大きくて、あったかい」

彼が、離れて俺の頬に手を添える。

「敦也もあったかいぞ」

俺は、その手に頬を押し付けて目を閉じた。

山城さんの全部が愛しくてたまらない。

 

「敦也…向こうに行こう」

俺の背中が床に触れていることを気遣って、山城さんが言う。

俺は頷いて少し移動し、ベッドの上に乗った。

山城さんが、上だけ服を脱いで、ゆっくりとのしかかってくる。

その重みとぬくもりは俺にとって奇蹟のようだった。

 

ボタンが全て外されたシャツの前を開いて、

山城さんが俺の胸に顔を埋めるようにして、突起に吸い付く。

「んっ」

舌で乳首の先端を潰すように押してきて、

「んっ、や…」

刺激が腰とあそこに来て体をよじる。

 

「…嫌か?」

山城さんが顔を上げて聞き、俺は首を横に振った。

「嫌じゃない。嫌じゃないから、俺がなんて言っても途中でやめないで」

「…分かった。でも、無理するなよ」

「うん」

 

山城さんが、俺の唇に自分の唇を合わせて、舌を差し入れてくる。

「んくっ、ふっ…あ…んっ」

両の手の平で俺の頭を包むようにしながら、

舌で口中をかき回すようにしたり、俺の舌に舌を絡ませたりする。

俺にはかなり激しく思える動きで、だんだん頭が痺れてくる。

「や、山城さ……あ、ん…、ん、ふっ」

 

でも、途中でやめることだけは絶対にして欲しくないから、

必死でついていこうとする。

ちゅっ、と音がして唇が離れ、やっと長いキスが終わったときには、

ちょっと頭がぼうっとした。

山城さんが、そのまま俺の首筋に吸いつき、

そのまま下へ降りて鎖骨に舌を這わせる。

そうしながら、指で乳首をつまんで弄る。

 

「あっ、あっ」

山城さんが指先に力を加えるたびに、

体が痙攣するようにビクッビクッと反応してしまう。

あそこが勃ちあがってくるのが分かる。

感じてしまって、早くそこを触って欲しいと思う。

「敦也…」

彼が感情を込めて俺の名前を呼び、それだけでものすごく嬉しくなったところで、

彼の手が動いて俺のズボンのボタンを外してファスナーを降ろした。

 

山城さんが俺のモノを取り出して握る。

甘い快感が背筋を走って吐息が漏れる。

「山城さん、好き…」

彼が乳首に顔を寄せ、それを口に含みながらペニスを扱き始める。

「あっ、あ、んっ…く、…あっ」

今、俺を扱いてるのは、山城さんの手…。

 

そう思ったら、感じてきて、

「ああっ、イくっ」

俺はあっと言うまにイってしまった。

山城さんは俺のズボンと下着を脱がしてから、

俺の腹の上の精液を手で掬うようにして取ると、

その手をそのまま俺の後ろのすぼまりへと持っていった。

そこに山城さんの手が触れるのを感じて体がビクッと揺れる。

 

男同士のセックスが後ろを使うってことは、知っていた。

ちょっとだけ怖い気もするけれど、でも今目の前にいるのは山城さんなのだ。

彼になら、何をされても構わない。

そう思っていると、山城さんが俺の白濁をそこに馴染ませるようにしながら、

指を入れてきた。

 

「う…」

初めての感覚に、ぎゅっと目を瞑る。

指はゆっくりと押し込まれていく。

「あ……んぅ…」

逃れたくなるような圧迫感を、必死にこらえる。

 

やがて山城さんが指の出し入れを始めると、そこが熱くなり、

少しずつ気持ちよくなってくる。

「は…ああ…山城さん」

体も、頬も、頭も、全部が火照っている。

心臓の鼓動が高鳴って、息遣いが荒くなる。

 

山城さんが、唇を合わせてきて、俺の唇を吸い尽くそうとするようなキスをする。

後ろが締まって、彼の指を締め付ける。

「もう俺…」

唇が離れて、俺がそう言うと、山城さんは指を抜いた。

山城さんも服を全部脱いで裸になると、

彼のモノが大きくなって上を向いているのが目に入った。

 

その様子に息を呑む。

俺が欲しかったそれは、予想していたよりずっと大きかった。

俺のモノなど比べ物にならないくらいだ。

山城さんは再び俺の上に乗ると、指の抜かれたそこに、自身のモノをあてがい、

「入れるよ」

と言った。

俺が頷くとグッと力を込める。

 

「いっ、…ああ!」

ものすごい痛みと圧迫感が体を駆け抜けて、

俺は思わず逃げようとするように上にずり上がってしまう。

違う。逃げたいんじゃない。逃げるんじゃない。

自分の体に言い聞かせるようにする。

「大丈夫か?」

山城さんの言葉に、こくりと頷く。

「だ、大丈夫だから、…入れて…」

 

山城さんが、それを聞いてまた力を入れる。

「ああっ!」

少し入ったところで注意深く腰を前後に振り始める。

「んっ、あっ」

俺のそこは、時間をかけて山城さんを半分ほど飲み込んだが、

それ以上なかなか進まなかった。

「…キツい」

山城さんも苦しそうだ。

「敦也、力を抜いて」

そう言われて、息を吐き、なるべく力を抜こうとする。

山城さんも、俺が感じるようにキスをしたり乳首を愛撫する。

 

そうして少しずつ進めるようにしていたけれど、

ふいに繋がった部分に目をやった山城さんが、眉を寄せて俺を見た。

顔をしかめて言う。

「敦也…血が出てる」

山城さんが動きを止めて、俺をじっと見つめた。

 

彼が、進もうかやめようか迷っているのが分かる。

「やだ」

俺は首を横に振って、山城さんがやめないよう彼に抱きついた。

「いいからっ、…入れて」

懇願する。絶対にやめないで欲しかった。

「でも、これ以上は…」

山城さんは、顔をしかめたまま、瞳に俺を案ずるような色を浮かべる。

 

「敦也、今日はやめよう。今はローションも何もないし、…今度買ってくるから」

「嫌だっ」

俺は不安になって叫んだ。

今じゃなきゃ駄目なんだっ。

「敦也…これっきりにしたりしない。約束する」

山城さんが、安心させようとするように穏やかな口調で言って、

自身のモノを抜こうとする。

 

でも俺はすがるように彼を見返して、抱きつく腕にこめられる限りの力をこめた。

「嫌だっ。抜かないでっ」

お願いだ、山城さん。お願いだから。

「お願いっ。傷ついても、いい…から、入れて…っ!」

ぎゅっと目を瞑る。涙がこぼれた。

 

死ぬほど痛かったけど、死ぬほど入れて欲しかった。

このままでは、心が空っぽで空しくて、悲しすぎると思った。

でも、山城さんは腰を引いて、俺の中から出て行ってしまい、

「ああ…」

俺は落胆して、手を緩めた。涙がポロポロこぼれる。

 

こんな気持ちになるくらいなら、壊してくれた方が良かったのに。

壊れてしまえば良かったのに。

すると、ふいに山城さんがふわりと覆いかぶさるようにして、

俺を体全体で包んだ。

「…私がいる。ずっといるから」

驚いて泣き顔のまま見つめると、山城さんは続けて言った。

「ゆっくり一つになればいい。大事にしたいんだ」

そのままギュッと抱きしめられる。

 

俺は目を閉じた。

そんな優しい言葉を、それまで聴いたことがなかった。

言葉の意味も、口調も、声の高さも、最高に心地よく耳に心に響いて、

穏やかな気持ちになり新たな涙がこぼれる。

体で満たされるのとはまた違う、でも暖かいなにかを感じる。

 

「山城さん…」

山城さんの名を呼びながら、俺も彼の大きな体にもう一度ギュッと抱きついた。

ゆっくり一つになればいい―

山城さんは俺を否定しない。俺のそばから消えない。

俺は、ここにいてもいいのだ。

「キスしたい」

ねだると、彼は惜しみなく与えてくれた。痺れるような、とろけるようなキス。

 

その手が俺の胸に伸びて、乳首に触れ、硬くなったそこを指先で転がす。

「はっ…あっ」

ああ。体中どこもかしこも触って欲しい。

山城さんが俺のモノを握り、ゆっくりとしごくと、ムチャクチャ感じた。

「は、あっ…ああっ!」

乳首を転がされ、そこをしごかれるうちに、

「うっ…」

俺はまた達した。精液が勢いよく、腹の上に飛ぶ。

 

山城さんが、それをティッシュで拭きながら唇で俺の唇を塞ぐ。

「ん…ん…っ。山城さん、好き」

山城さんの頭を抱きかかえるようにして、彼の唇を貪った。

いつまでも離れたくない。いつまでもこうしていたい。

 

唇が離れて山城さんが体を起こした。

俺の足を開いて、後ろの窄まりに顔を寄せる。

そこにヌルッとした感触を感じる。山城さんが舌を入れようとしている。

「あっ」

後ろの粘膜と舌が触れ合う刺激が強くて、体がビクッビクッと反応する。

 

イッたばかりなのに、またあそこが勃ち上がってくる。

「山城さん…ああ」

山城さんが舐めるのをやめて、指をそこにあてがった。グッと挿入する。

「あっ、ん」

山城さんは奥まで指を入れた。

彼が唾液で濡らしてくれたせいなのか、

気持ちが満たされたせいか痛みは感じない。

後ろが、彼の指の硬さを感じて締め付ける。

 

気持ちいい…

俺の前はまたビンビンに勃ち上がっていた。

山城さんが、俺のペニスに、自分の硬くそそり立ったそれを押し付けて来て、

一緒に束ねるようにして緩く握り、腰を動かした。

お互いの先走りが溢れているせいで、ヌルヌルと擦れあう。

 

「ああ…山城さん」

入れるほどの刺激はないけれど、じわじわと快感が高まっていく。

山城さんが、後ろの指を抜いてもう一度入れ直した。

指を増やしたのか、さっきよりもきつい。

「あ……いっ、いいよ。もっと、増やして」

山城さんの指をそこに感じる。しっかりとした太い指。

その指がグッと奥まで入れられる。

 

「あぁっ!」

俺は山城さんにしがみついた。

「敦也の中、うねってる」

「はぁ…あぁ…」

前は山城さんのモノと一緒にしごかれ、後ろは彼の指を締め付け、

俺は限界を迎えていた。

 

「ああっ、出るっ。山城さん…っ」

「私もだ」

次の瞬間、俺と山城さんのペニスは同時に弾け、

二本を束ねるように持っていた山城さんの手は、

二人分の精液にまみれてドロドロになった。

 

荒い息遣いのまま俺はその手を取って、口に持ってくると、

混ざり合った白い液を舐め取った。

大きくて骨っぽい、世界にたった一つの、大好きな山城さんの手。

俺は、その手を舐めあげながら、彼を見つめた。

「こんなんじゃなく…いつか…必ず、ちゃんと一つになるから」

一緒に最後までイキたい。いつか一つになって…その後も、ずっと。

俺は、山城さんと一緒にいる。

 

永遠、なんてありはしないと、知っている。

だから、それは矛盾しているのかも知れないけれど、

でも、

俺はずっと、ずっと、山城さんと一緒にいる。

そう思った。

 

そうして彼の手を舐めていると、山城さんが後ろに入れたままの指を動かした。

「んっ」

イッたばかりなのに、また感じる。

山城さんの指が出し入れされると、どんどん気持ちよくなる。

俺は山城さんの手を放して、後ろの快感に身を委ねた。

「ああっ。ああっ、山城さん、もっと…もっと欲しい」

何度でも。何度でもイカされたい。

 

「私も敦也が欲しい」

指が、またグッと押し入れられる。

「は、あっ」

もう何本入っているのか分からない。

山城さんの勃ち上がったソレでなくてもかまわない。

山城さんが愛してくれるなら、それだけで…

「今夜は寝かさない」

彼の声が聞こえて、死ぬほど嬉しい気持ちになり、涙が出た。

 

俺のモノが復活して硬く勃ち上がり、山城さんがそれを舐める。

「う…ああ」

そして、鈴口に舌を割り入れるようにしたり、

先端をチュッと音をたてて吸ったりする。

あまりの気持ちよさに、心臓が波打って下半身が疼いて仕方なくなる。

「山城さん…山城さん…」

何回呼んでも足りない。

「…好き、好き、好き…は…ああっ」

 

それから。

何度イカされただろう。

山城さんは、本当にその夜、一晩中飽きることなく俺を愛してくれた。

山城さんのモノで貫かれなくても、俺は何度も何度もイッた。

あんなに幸せな気持ちになったことはない。

俺はあの夜のことを忘れない。

 

 

 

それからほどなくして、

ベッドのそばにチューブに入ったクリームが置かれるようになった。

エッチ専用のクリームだけど、よく考えたら、

あの夜だってなにか他のもので代用してヤろうと思えば出来たのかも知れない。

例えば…サラダ油とか…なんかそれっぽいもので。ムードないけど。

でも、あの時はそんなこと思いもつかず、ああいうセックスになった。

そして、結果的にむちゃくちゃ気持ち良かったし、

幸せな気持ちになったのだから、あれはあれで良かったのだと思う。

 

あのクリームをあの山城さんが買って来たのだと思うと、

なんだか微笑ましい気分になる。

あれを初めて使ったときも大変だったな。

思い出すと、笑えてくる。

 

と、その時呼び鈴が鳴った。それから鍵を開ける音。

俺は飛び起きて玄関に向かう。

鍵が開くと山城さんが入ってくる。

「ただいま」

今日も疲れているのか、なんだかヨレッとした感じでどっからどう見ても、

その辺のただのおっさんだ。

 

「おかえり」

でも、俺にはものすごく大事な人で、かけがえのない人で…

「へっくし!」

山城さんが入ってくるなり、くしゃみをした。

「どうしたんだよ。風邪?」

「いや…」

今度は目を擦っている。

「花粉が飛び始めたみたいだな」

なんだ。花粉症かぁ。

 

その仕草がおっさんなのになんだか可愛くて、思わず笑った。

「笑うなよ。敦也には分からないかも知れないが、なかなかに辛いんだぞ」

「知ってるよ。辛そうなお客さん結構来るし」

本人にしてみれば、笑い事じゃないんだろうけど、やっぱり笑ってしまう。

俺は笑いながら思った。

明日、店で一番売れてる鼻炎薬、買って来てやろう。

 

 

 

 

                         了

 

 

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 あとがき

 この作品はフィクションです。

 初めて書いた18禁小説が、この「CALLING」の「上から三冊目」でした。

 BLは書きたいけれどもHシーンの書き方は分からず、

 それ系のサイトさんを巡っていろいろ吸収させてもらって、

 なんとか形にしたのでした。

 当時、続きを書く気はなかったので、

 この「花ぬすびと」と「上から三冊目」の雰囲気が

 微妙に違うかも知れませんが、

 その辺アバウト目線で見ていただけると大変助かります。^^

 まだまだ勉強中の拙い文章を読んでいただきありがとうございました。

 besten dank(サンキューベリマッチ)。

 2010.03.16   web拍手 押してくださると励みになります   「胸に抱く人」へ