最近の収用事例

東山の森不動産・補償コンサルタント


最近の収用事例
(収用の現場からのレポート)
最初の収用事例画面に戻るクリック)



5 R元年7月3日
愛知県収用委員会平成29年2−2号事件

最近の収用事例(収用の現場からのレポート)



(東海4県・東京都・沖縄県・長崎県の最近の収用事例)


5 愛知県収用委員会平成29年第2−2号事件の概要(土地の境界が不明の場合の収用裁決事案:平成30年3月22日申請、平成31年2月25日裁決) 

(※説明の便宜のため、事例及び裁決書の内容を少し変更してあります。正確な内容を知りたい方は、ホームページの連絡先にお問い合わせください。)


(件名)名古屋都市計画道路事業3・2・53東志賀町線、3・3・55号上飯田線及び3・4・100山の手通線に係る裁決申請及び明渡裁決申立事件)

起業者 名古屋市 代表者 名古屋市長 河村たかし

(裁決申請及び明渡裁決の申立てに至った経緯等概要)

 本件事業は、都市計画法に基づく事業の認可後、起業者は鋭意用地取得を進め、平成28年5月までに用地取得を面積比で99.3パーセント完了したものの、X土地及びY土地が依然として取得できない状況であった。

 これらの土地を取得するため、平成11年から土地所有者と交渉を重ねてきた。しかし、土地所有者が、用地交渉時における起業者の対応等についての、また、起業者が行った北側に隣接する土地との境界確定の手続についての不服を申し立てたことなどから、任意による用地取得交渉は難航し、近年では、事実上交渉ができない状態となったため、このまま任意交渉を継続しても用地を取得することはできないと判断して、平成30年3月22日に本件裁決申請等を行うに至ったものである。


(土地調書及び物件調書作成の経緯について)

(1) 土地調書

 X土地について、土地収用法第36条第1項に定める土地調書を作成するにあたり、平成29年10月31日に土地所有者に立会い及び署名押印を求めたところ、土地所有者は、土地境界取決め方法疑義があるため同意できない旨の異議を付し署名押印した。Y土地に係る土地調書についても、同日に、土地所有者9名に立会い及び署名押印を求めたところ、土地の所有者の一人であるBが、境界線面積に問題がある旨異議を付し、その他8名の共有者も、同年10月31日又は12月31日に、土地境界の取決め方法疑義がある等の異議を付記して署名押印した。

 また、これらの土地に根抵当権を有するD銀行関係人として署名押印を求めたにもかかわらず、立会い欠席し相当の期間内に署名押印しなかったことから、法第36条第4項規定により、名古屋市職員が、平成29年12月27日に立会い、平成30年1月5日署名押印した。


(本事例のポイント:境界の確定問題があるため、一部不明裁決」とした。)

※起業者は、Y土地の公簿面積確保するため、立会証明書に記載された境界を西へ91ミリメートル移動させた境界を基に裁決申請を行った。


(ポイント1 土地の境界について)

@ 実測面積が必ず公簿面積と一致するものではなく、また、起業者は、Y土地につき公簿面積を確保しなければならないとする具体的な理由は述べておらず、境界を移動させる根拠となる資料等の提出もない。

したがって、起業者申し立てたX土地とY土地との境界正しいものであるとは、にわかには認められない

むしろ、立会証明書の境界が正しいものであるとみる考え方も否定できない。


A 他方、A及びB外8名は、ともに立会証明書の境界と起業者が申し立てた境界との間で別の線が境界であると意見を述べているのであるが、隣接所有者間(すなわち、AとB外8名との間)に境界についての合意成立していることのみをもって境界であると認めることもできない


B 以上のとおりであるから、Y土地であるとして起業者が申し立てた部分のうち、立会証明書に記載された境界西へ91ミリメートル移動させた境界で囲まれた部分(Z)については、X土地であるのかY土地であるのか、当委員会確知することができないと言わざるを得ない。したがって、当委員会は、このZ部分地番不明土地であると判断する。


C 起業者がY土地であると申し立てた土地のうちZ部分を除いた部分は、B外8名の共有地であると認められる。


(ポイント2 権利取得に伴う損失補償額について)

@ X土地の土地所有権に対する損失の補償額

 収用する土地の面積16.81平方メートルに1平方メートル当たりの土地単価○○円を乗じて得た額に法第71条に定める修正率を乗じて算出した損失の補償額●●円をAに対して補償することが相当であると判断する。


A Y土地(Z部分を除いた部分)の土地所有権に対する損失の補償額

 収用する土地の面積84.51平方メートルに1平方メートル当たりの土地単価△△円及び土地所有者の共有持分(9分の1)を相乗して得た金額に修正率を乗じて算出した損失の補償額▲▲円をB外8名の各人に対して補償することが相当であると判断する。


B 地番不明(Z部分)の土地、ただし、X土地又はY土地の一部の土地所有権に対する損失の補償額

 いずれの地番の土地に属するか不明であるが、土地の全てX土地の一部と確定した場合は、上記@に加えて、確定した土地の面積に1平方メートル当たりの土地単価○○円を乗じて得た額に修正率を乗じて算出した損失の補償額□□円をAに対して補償することが相当であると判断する。

 また、土地の全てY土地の一部と確定した場合には、上記Aに加えて、確定した土地の面積に1平方メートル当たりの土地単価△△円及び土地所有者の共有持分(9分の1)を相乗して得た額に修正率を乗じて算出した損失の補償額■■円をB外8名各人に対して補償することが相当であると判断する。

 なお、地番不明の土地がX土地及びY土地一部と確定した場合は、X土地一部と確定した面積に1平方メートル当たりの土地単価○○円を乗じて得た額に修正率を乗じ、また、Y土地一部と確定した面積に1平方メートル当たりの土地単価△△円及び土地所有者の共有持分(9分の1)を相乗して得た額に修正率を乗じて、それぞれ補償額算定するものとする。


(ポイント3 土地に関する所有権以外の権利に対する損失の補償)

 Cをアスファルト舗装等の所有者と認定するに当たり、X土地について、Cが土地所有者であるAとの間で土地の賃貸借契約又は使用貸借契約を締結した事実や、賃借料の支払等の事実は確認されておらず、権利の存否について確証得られていない

 そのため、X土地に関する所有権以外権利存否については不明とし、仮に権利がある場合使用借権であると認定する。

 使用借権を認めたとしても、土地の使用状況等からみれば、使用借権経済的価値は、皆無に等しいものと判断されるため、補償額0円を相当とする。

 また根抵当権者であるD銀行に対する損失の補償は、個別に見積もることが困難であるため、法第69条ただし書の規定に基づき、土地の所有権に対する損失の補償含め一括して見積もった起業者の申立てを相当と認める。