最近の収用事例

東山の森不動産・補償コンサルタント


最近の収用事例
(収用の現場からのレポート)
(各項目をクリックしてください)



6 R元年9月25日
長崎県収用委員会平成28年19号事件


5 R元年7月3日
愛知県収用委員会平成29年2−2号事件


4 R元年5月23日
東京都収用委員会平成28年17号事件


3 R元年5月15日
沖縄県収用委員会平成28年1号事件


2 R元年4月15日
沖縄県収用委員会平成28年10号事件


1 R元年4月1日
三重県収用委員会平成30年1号事件

最近の収用事例(収用の現場からのレポート)



(東海4県・東京都・沖縄県・長崎県の最近の収用事例)


 受験生の皆さんは、土地収用手続きについて、試験対策として勉強されているので、制度や手続についてはなんとなく理解できていると思います。しかし、いまひとつ具体的イメージが付きにくいのではありませんか。

 また、用地事務に実際に従事する自治体の職員の方も、理解が十分とは言い難いと思います。

 ここでは、どんなときに、どんなふうに収用手続きが利用されているかを、平成29年度から平成30年度に実際の土地収用の現場で扱われた裁決事件について、東海4県(愛知県・岐阜県・三重県・静岡県)並びに収用事件が多い東京都、沖縄県及び長崎県の事例の【概要とポイント】を基に順次紹介します。

 なお、裁決書の形式(ひな形)は、前節「土地収用法基礎講座(4 権利取得裁決・明渡裁決)」の愛知県S市の裁決書(抜粋)を参照してください。


≪以下の各事例について、詳細を知りたい方は、東山の森不動産・補償コンサルタントまでお尋ねください。≫

≪収用案件について、質問・相談等のある方も、東山の森不動産・補償コンサルタントまでご相談ください。≫



(石木ダム関連) 本件については、東山の森不動産・補償コンサルタント-YouTubeでも扱っていますので、一度ご覧ください。

 11月18日に、長崎県東彼杵郡川棚町地内の石木ダム建設予定地を視察しました。

 石木ダムについては、まだ13世帯が建設に反対しており、土地収用法に基づく明渡期限が11月18日になっていますが、解決の目処は立っていません。

 県知事の代執行も噂されており、マスコミも注目しています。




《土地収用法第28条の2に基づく「補償等について周知させるための措置

お知らせ

 長崎県及び佐世保市(以下「起業者」という)が皆様のご協力により施工しております「一級河川川棚水川水系石木ダム建設工事並びにこれに伴う県道、町道及び農業用道路付替工事」については、平成25年9月6日付九州地方整備局告示第157号を持って、土地収用法の規定に基づく事業認定告示がありましたので、土地所有者および関係人の皆様に土地収用法第28条の2の規定により、次の事項についてお知らせします。

                  記

1 事業認定があった土地(手続きが保留された土地は除きます。)

収用の部分

 長崎県東彼杵郡川棚町石木郷字鶴道の1部及び字・・・地内

(注) この土地を表示する図面は川棚町役場(ダム対策室)でご覧いただけます


2 前記1の土地については、事業の認定の告示があった日から、土地収用法による次の効果が発生していますのでご留意ください。

@ 土地価格固定について

 事業認定告示があったをもって土地価格固定されることになります。

A 関係人の範囲の制限について

 事業の認定のあった日以後においては、新たな権利取得した方は、既存の権利承継した方を除き関係人に含まれないことになります。

B 損失補償の制限について

 土地所有者又は関係人は、事業の認定の告示があった日以後に置いて、土地形質変更し、工作物新築し、又は増改築をするときは、あらかじめ長崎県知事承認を得なければ、これに関する損失の補償請求することができません

C 裁決申請の請求について

 裁決申請起業者行います土地所有者又は土地に関して権利を有する関係人(担保権者、差押債権者等である関係人を除く。以下Eにおいても同じ。)は、自己の権利に係る土地について、事業者に対し裁決申請をすべきことを請求することができます。

D 補償金の支払請求について

 土地所有及び土地に関して権利を有する関係人は権利取得裁決前であっても、起業者に対し、土地又は土地に関する所有権以外の権利に対する補償金の支払を請求することができます。

 この補償金支払請求は、裁決申請合わせてしなければなりません

E 明渡裁決の申立てについて

 明渡裁決の申立ては、土地所有者又は関係人も直接長崎県収用委員会にすることができます。


3 パンフレット配布について

 補償等内容記載したパンフレット補償等について」のお知らせは、長崎県石木ダム建設事務所(所在地長崎県東彼杵郡川棚町石木郷195-1)、佐世保市水道局(所在地 長崎県佐世保市八幡町4番8号)及び川棚町ダム対策室(所在地 長崎県東彼杵郡川棚町中組郷1518-1)において配布いたします


4 その他不明な点については、長崎県石木ダム建設事務所用地課(所在地長崎県東彼杵郡川棚町石木郷195-1)ご照会ください。

電話番号0956-82-5109


長崎県・佐世保市


6 長崎県収用委員会平成28年第19号事件の概要(ダム事業について、地元の反対運動が強く難航している事案の一つ:平成28年5月11日付け収用裁決申請及び明渡裁決申立て、令和元年5月21日裁決:なお、石木ダム事業については、全部で35件の収用裁決等の申請がなされており、平成29年度の収用裁決等の処理状況調査では、長崎県が全国第一位である。)

(※説明の便宜のため、事例及び裁決書の内容を少し変更してあります。正確な内容を知りたい方は、ホームページの連絡先にお問い合わせください。)


(件名)二級河川川棚川水系石木ダム建設工事並びにこれに伴う県道、町道及び農業用道路付替工事のための土地収用事件

起業者  長崎県知事 中村法道  佐世保市長 朝長則男

上記代理人 、 長崎県知事 中村法道


(裁決申請及び明渡裁決の申立てに至った経緯等概要)

 土地所有者に対して、これまで事業への協力と土地売買の契約をお願いしてきたが、協力してもらえない状況である。このため、起業者としては、やむなく裁決申請及び明渡裁決申立てに至ったものである。


(本事例のポイント:ダム事業典型的な争点凝縮されている。)


(起業者の申し立ての要旨)

 裁決申請書、明渡裁決申立書及びこれらの添付書類並びに当委員会の審理等における起業者の申立て等の要旨は次のとおりである。

 二級河川川棚川水系川棚川(以下「川棚川」という。)は、その源を長崎県東彼杵郡波佐見町の桃ノ木峠(標高375m)に発し、同町及び同県同郡川棚町(以下「川棚町」という。)を貫流し、大村湾に注ぐ流路延長約19.4km、流域面積約81.4Kuの河川である。

 川棚川の流域は地形的に山が迫り流路延長が短かく川幅も狭いことから、梅雨期や台風期には過去幾度となく災害を受けている。そのため、築堤や河床掘削、野々川ダムの建設等様々な治水対策を行ってきたが、平成2年7月2日の梅雨前線による豪雨により、川棚町全体で床上浸水97戸及び床下浸水287戸の甚大な被害を受けており、新たな治水対策急務となっている。

 一方、同県佐世保市(以下「佐世保市」という。)では、安定水源の給水能力が不足しており、毎年節水の呼びかけを行っている状況にある。特に平成6年の渇水は、翌7年にも影響が及び、平成6年8月1日から同7年4月26日まで264日間もの給水制限を実施した。また、現在、人口の停滞などが生じているが、今後下水道の普及による生活用水の増加、大口需要や新規計画といった営業用水の増加等も予想される。このように現在でも不足している水量に加え、将来の水需要の増大に対応するためには川棚川において新規水源開発急務となっている。

 本件事業は、このような状況に対応するため、川棚川左支川石木川の川棚町岩屋郷地内に洪水調節流水正常機能維持及び水道用水供給を目的とする多目的ダムを長崎県と佐世保市が共同で建設するもので、昭和50年4月の事業着手以来、平成34年度の完成を目指し現在施行中である。

 なお、本件事業については、平成25年9月6日付け国土交通省九州地方整備局告示第157号により法第16条の事業認定告示を受けているところである。


(土地所有者の主張の要旨)

1 土地所有者Aの主張の要旨

(1) 石木ダムは治水・利水の両面で必要がないことが事業認定取消訴訟の進行で明らかになっている。

(2) そのような事業に、川原郷の13世帯のみなさんが犠牲になる事態は、生活権や人権などへの侵害である。

(3) このような納税者の血税数百億円を無駄遣いにするような事業に対して、心から怒りがわいてくる。

(4) 事業認定を前提として収用委員会審理が進められていることに抗議する。

(5) 石木ダム建設は中止すべき。


2 土地所有者Bの主張の要旨

(1) 起業者が申立てた損失補償金などの算定において、川原地区の地域社会の基盤となっている自然環境、里山・里地の価値が異常に低く見積もられている。これらの土地の大気、水、土壌、野草、樹木、脊椎動物、無脊椎動物や無数の土壌微生物などは人間の生存に不可欠な生存基盤を形成し、人間と地域社会の生存と安寧を保障しており、これらの機能の代償は途方もなく大きい。

(2) この地に生活している住民が住まい、耕し、健康に生活を続ける権利を保障するという視点からみれば明渡し期限は少なくとも1世代30年程度は必要である。

(3) 石木ダムの主たる目的である水道用水は足りており、また、水道用水需用は減少傾向であるため、石木ダム建設は必要がなくなった事業である。必要がなくなった事業について、そのまま何の見直しもせず、強制収用手続きを進める裁決申請は認められない。事業計画について、本当に地域社会にとって必要なものか長崎県と佐世保市が住民参加の下に丁寧に見直すところからやり直すことが大切と考える。


3 土地所有者Cの主張の要旨

(1) 石木ダムは治水・利水両面で必要がない。このことは事業認定取消訴訟の進行で明らかになっている。

(2) 不要な石木ダム事業のために13世帯の居住者の生活を破壊することは人格権の侵害である。

(3) 不要な石木ダム建設の総事業費は285億円、関連する佐世保市水道事業費は253億円かかるとされている。これらはまったくの無駄遣いであるうえ、国庫から補助金も含まれていることから、納税者の私たちにとっては、いわれのない不利益である。

(4) このような人権侵害案件について、事業認定を大前提にして収用委員会審理が進行していることに抗議する。

(5)この案件は却下決定することを求める。


4 土地所有者Dの主張の要旨

(1) 石木ダムは、治水・利水両面で必要がないことは事業認定取消訴訟の進行で明らかになっている。

(2) 不要な石木ダム事業のために13世帯皆さんの生活を破壊することは人格権の侵害である。

(3) 必要のない石木ダム建設の総事業費は285億円、関連した佐世保市水道事業費は253億円かかるとされている。これらはまったくの無駄遣いであるうえ、国庫から補助金も含まれていることから、納税者である私たちにとっては、いわれのない不利益である。

(4) 私が納税している税金がこの事業に使われ、その結果として私自身が川原郷の皆さんの加害者になってしまうことを拒否する。

(5) このような人格権侵害案件について、事業認定されたことのみを以て収用委員会審理が進行していることに抗議する。

(6) この案件に対し却下決定することを求める。


5 土地所有者Eの主張の要旨

(1) 石木ダムは、治水・利水両面で必要がないことは事業認定取消訴訟の進行で明らかになっている。

(2) 不要な石木ダム事業のために13世帯皆さんの生活を破壊することは人格権の侵害である。

(3) 必要のない石木ダム建設の総事業費は285億円、関連した佐世保市水道事業費は253億円かかるとされている。これらはまったくの無駄遣いであるうえ、国庫から補助金も含まれていることから、納税者である私たちにとっては、いわれのない不利益である。

(4) 私が納税している税金がこの事業に使われ、その結果として私自身が川原郷の皆さんの加害者になってしまうことを拒否する。

(5) このような人格権侵害案件について、事業認定されたことのみを以て収用委員会審理が進行していることに抗議する。

(6) この案件に対し却下決定することを求める。


6 土地所有者Fの主張の要旨

(1) 石木ダムは、これまでのさまざまな検証によって、治水においても利水においても必要性を全く欠き、その有効性は一切認められていない。

(2) 水没する十三世帯の皆さんが生活する地域は、人間が暮らす環境としては、これ以上の地はないと言えるほどに快適な場所で、ダム建設に反対することは当然だと理解している。そこに、必要性がまったく認められないダムを建設しようとする行政当局は住民いじめが目的なのかと疑っている。

(3) 石木ダム建設に、285億円、関連事業費253億円が投入されることには、あきれて二の句がつげない。納税者の一人である私にも、不利益が生じる。

(4) 住民を居住地から追い出すことは、暴挙であるばかりか、住民の生存権や人権を無視した法違反とも言える。従ってこのような生存権や人格権を侵害する案件について、事業認定を大前提とした収用委員会の審理及びその手続きの進行に強く抗議し、本件を却下するよう求める。


7 土地所有者Gの主張の要旨

(1) 治水・利水両面で石木ダムが不要な事業であることは、事業認定取消訴訟の進行によって明らかになっている。

(2) 13世帯の生活を破壊することは、人格権の侵害である。

(3) 人格権を侵害する当事業の認定を前提に、土地収用を進めることは憲法違反であり、断じて許されない。

(4) 共有地権者である私にとっても財産権の侵害となることから、土地収用は断じて認めない。

(5) 必要のない石木ダム建設の総事業費は285億円、関連する佐世保市水道事業費は253億円とされるが、これらは全くの無駄遣いであるうえ、国庫からの補助金も含まれていることから、納税者である国民にとっても、いわれのない不利益である。

(6) 私は、国に対して事業認定の取り消しを求めるとともに、収用委員会に対しては本案件(土地収用)の却下決定を求める。


8 土地所有者Hの主張の要旨

(1) 石木ダムは治水・利水両面で必要がないことは事業認定取消訴訟の進行で明らかになっている。

(2) 不要な石木ダム事業のために13世帯皆さんの生活を破壊することは人格権の侵害である。

(3) 必要のない石木ダム建設の総事業費は500億円以上が見込まれ、これらはまったくの無駄遣いであるうえ、国庫からの補助金も含まれていることから、納税者である私たちにとっては、いわれのない不利益である。

(4) このような人格権侵害案件について、事業認定を大前提にして収用委員会審理が進行していることに抗議する。

(5) この案件は却下決定することを求める。

(6) 人口減少などによる水需要の減少を無視して過大な水需要予測など、建設目的を捏造し虚偽の理由で約500億円もの貴重な税金を使う責任も追及されて然るべきである。日本は法の支配の国であり、石木ダムを計画し強行している長崎県知事等は詐欺罪で立件されるのが当然である。嘘の理由で県民を騙して500億円もの大金を引き出し、住民の田畑や家屋を有無を言わせず取り上げて、石木ダムを強行する長崎県知事は、最低でも詐欺罪で処分されて当然である。


9 土地所有者T及びJの主張の要旨

(1) 本事業認定は法第29条第2項に基づき、平成29年9月7日をもって、収用委員会は事業の認定を失効させること。

(2) 告示書による事業認定の法第20号の各号の要件への適合性は存在せず、事業認定は無効である。従って、法第47条第1項の規定に基づき、早急に、収用委員会は裁決を以って申請を却下すること。


10 土地所有者Kの主張の要旨

(1) 地権者の理解が得られていない石木ダム事業に、賛同する事はできない。

(2) 地権者や世間の人々が納得できるような、事業目的を示すこと。

(3) 県は、県民の生命と財産を守り、安心して生活できるよう働くのが県の仕事のはず。長崎県の行いは、全く真逆で現地住民の人権を無視した非人道的行為である。このような行いは、権力による「いじめ」であり直ちに止めること。また「いじめ」行為をしているあなた方は、立派な大人として、恥ずかしくないのか?

(4) 石木ダム事業は人の道に反した事業であり、速やかに事業を白紙にすること。


11 土地所有者Lの主張の要旨

(1) 石木ダムは不要である。

(2) 不要なダムの建設をムリに強行することで、13世帯が生活の場を失うことになる。

(3) 私はそもそも本件を不要な公共事業だと考えている。補償金で解決できる問題ではなく、補償額が適正なら売却しても良いとは考えていない。

(4) 長崎県が土地収用法を適用すること自体が間違っているので、却下を求める。

(5) 日本は、国も長崎県も佐世保市も、財政状況が超逼迫している。石木ダムの如き無用な公共事業になけなしの予算をつぎ込む余裕はない。より緊急度の高い、必要不可欠な事業に尊い予算を優先して廻すべきである。

(6) 過去のいきさつに捉われない真剣な討議を期待する。


12 土地所有者Mの主張の要旨

 石木ダム建設事業は事業認定の要件である法第20条第3号の要件を満たしていないので、これ以上土地収用手続を進めることは許されない。本件裁決申請等の却下を求める。


13 上記1乃至12を除く土地所有者の主張の要旨

(1) 土地所有者は、いずれも法第43条第1項の規定に基づく意見書を提出せず、当委員会が開催した平成29年5月16日の第1回審理及び同年7月20 日の第2回審理にも出席しなかった。

(2) 当委員会は、土地所有者に対して、法第6 5条第1 項の規定に基づき、同年6月15日付け及び同年8月7日付けの文書をそれぞれ送付し、補償等に関して意見書を提出するよう2回求めたが、いずれも意見書の提出はなかった。

(3) 当委員会は、土地所有者らに対して、平成29年6月15日付けの文書で当委員会が予定している土地、物件の立ち入り調査への協力依頼と調査の諾否について照会したが、何ら回答はなかった。


(収用委員会の裁決理由)

第1 裁決申請却下の申立てについて

 土地所有者B外10名は、主張の要旨2乃至9、11及び12のとおり主張しているので、当委員会は裁決申請書の添付書類及び起業者の提出書類並びに当委員会の審理の結果及び当委員会に提出された意見書等を総合的に検討して次のとおり判断する。

(1) 上記B外10名の主張は詰まるところ事業認定処分が違法又は無効であるとして却下の裁決を求めるものであるが、事業認定処分が無効となる場合を除いて、一旦、有効に成立した事業認定処分事業認定効力否定されるまで適法なものとして扱われることから、事業認定の効力否定されていない以上は事業認定処分が違法であることを理由として裁決申請却下を求めることはできない

(2) 本事業に係る国土交通省九州地方整備局長の事業認定処分について、その処分が無効となるような重大かつ明白な瑕疵は認められない。

(3) また、当委員会に提出された裁決申請書及び明渡裁決申立書並びに当委員会の審理の結果等においても法第47条の要件に該当するような事実は認められない。

(4) 以上のことから、土地所有者の裁決申請の却下を求める主張は理由がない。


第2 物件収用の請求について

 起業者は、本件事業に支障となる杉について、法第79 条の規定に基づき収用請求をしている。

 当委員会は、明渡裁決申立書の添付書類及び起業者の提出書類並びに当委員会の審理の結果等を総合的に検討した結果、起業者の収用請求については、移転を必要とする当該物件の移転料総額が当該物件に相当するものを取得するのに必要とする価格超えるので、起業者請求相当と認める。


第3 損失の補償について

1 土地に対する損失の補償

 土地所有者は、本件土地について、川原地区の地域社会の基盤となっている自然環境、里山・里地の価値が低く見積もられており、里山、里地が生態系として生存の基盤を形成している価値、人間と地域社会の生存と安寧を保障している価値を考慮するよう主張している。

 当委員会は、裁決申請書の添付書類及び起業者の提出資料並びに当委員会の審理の結果及び当委員会に提出された意見書等を総合的に判断した結果、次のとおり判断する。

(1) 収用に伴う損失補償は、法第88条の2の規定によって、土地収用法第88条の2の細目等を定める政令の定めるところにより算定される。同政令第1条によれば、収用する土地に対する補償金の額は、近傍類地取引事例における取引価格に取引が行われた事情、時期等に応じて適正補正を加えた価格を基準として位置、形状、環境及び収益性その他一般の取引における価格形成上の諸要素総合的比較考量して算定される。

(2) そこでまず、土地所有者が主張する里山、里地が生態系として生存の基盤を形成している価値、人間と地域社会の生存と安寧を保障している価値(以下「里山等の価値」という。)が政令第1条に規定する環境に該当するか検討する。

 政令第1条の「環境」は、収用対象土地の価格を形成する要素として、他の土地に比して有意な特質を有する環境をいうところ、土地所有者が主張する自然環境、里山等の機能は、いうならば、全ての自然環境、里山等が共通して有する普遍的な機能であり、土地価格形成上有意な特質ではないから、同条の「環境」には該当しない。

(3) 次に土地所有者が主張する里山等の価値が政令第1条に規定するその他一般の取引における価格形成上の諸要素に該当するか検討する。

 前項のような自然環境が持つ普遍的な機能に基づく価値は、普遍的であるが故に取引価格において評価が尽くされており、これに加えて考慮すべき「その他一般の取引における価格形成上の諸要素」はない。

(4) 仮に、土地所有者が主張する自然環境、里山等の価値が(2)の普遍的な機能に基づく価値を超える価値であるとすれば、それは土地所有者の自然環境への思いを反映した主観的価値である。収用委員会が裁決する収用する土地の相当の価格は土地の正常な取引価格であるところ、このような主観的価値は正常な取引価格には反映しないから、土地価格算定では考慮されない

(5) 上記(2)乃至(4)の理由により、土地所有者の主張する里山等の価値は政令第1条に基づき比較考量される事項に該当しないから、土地に対する補償金の算定においては考慮されない。

 よって、本件土地に対する補償金の算定において、自然環境、里山等の価値を考慮することを求めている土地所有者の主張は採用できない。

(6) 一方、起業者の土地に対する損失補償の見積額は、政令第1条の規定に基づいて算定されており、算定内容についても妥当であるなど、合理性があると認められる。

(7) 上記(5)及び(6)により、起業者の申立てを相当と認める。

 よって、補償額は、起業者が申し立てた収用手続開始告示のあった平成27年7月31日時点の本件土地の価格に法第71条の規定に基づき物価変動に応じた修正率○○を乗じて得た額とし、その内訳は別表××のとおりとする。


2 土地に対する損失の補償以外の損失の補償

(1) 明渡裁決申立書の添付書類及び起業者の提出資料によると、起業者は、地元地権者及び支援団体により、法第35条第1項の規定による立入り妨げられ調査著しく困難であるため、法第37条の2の規定により、空中写真測量による地形図森林簿及び道路上からの観察写真撮影に基づいて物件調書作成し、これを基に分る範囲補償額見積もっている。

 当委員会は、適正な補償額を調査算定するため、土地所有者の主張の要旨13(3)のとおり、土地、物件の立ち入り調査を企図し、土地所有者に調査協力を働きかけたが、協力を得ることはできなかった。

 このため、当委員会としても上記物件調書を基に可能な範囲内で補償額を見積もることとする。

(2) 上記(1)の判断に基づき、当委員会は、明渡裁決申立書の添付書類及び起業者の提出書類並びに当委員会の審理の結果等を総合的に判断して次のとおり決定する。

 土地所有者に対する立竹木補償金について、起業者補償積算方法合理的認め、九州地区用地対策連絡会の平成30年度損失補償算定標準書に定める単価に更正して、立竹木補償金を別表×××のとおり算定する。


第4 その他の申立てについて

1 石木ダムについて、土地所有者Aは主張の要旨1のとおり建設の中止を、また、土地所有者Kは主張の要旨10のとおり事業白紙にするよう求めているが、これらの事項は当委員会判断する事項とは異なるので、当委員会はこの点に関し判断しない


2 土地所有者I及びJは主張の要旨9のとおり事業認定を失効させるよう求めているが、当委員会事業認定を失効させる権限有していないので、当委員会はこの点に関し判断しない