土地収用法基礎講座(1 任意取得と強制取得)
この講座は、トピックも入れて、土地収用法をより深く解説します。
(1 任意取得と強制取得)
(1) 任意取得のケ−ス(民事事件)
@ 法的性質は、民法上の契約である。
取消、解除等は、民事訴訟法に基づき裁判所で争う。
相手方が不履行の場合は、民事訴訟で確定判決をえて、その後、裁判所の執行官の強制執行を通じて土地を取得する。
(2)強制取得のケ−ス(行政事件)
法的性質は、土地収用法に基づく行政処分である。
取消は、収用委員会を相手に行政事件訴訟法に基づき裁判所で争う。または、行政不服審査法に基づき国土交通大臣に取消を申し立てる手段もある。
なお、収用裁決の金額に不服の場合は起業者を相手に行政事件訴訟法に基づき裁判所で争う(これを当事者訴訟という)。
相手方が不履行の場合は、土地収用法に基づき県知事に代執行を申立て、その後知事の代執行を通じて土地を取得する。
(3)土地収用法は基本的に強制を伴うため、時として大きな反発があります。今回、俗に成田闘争と呼ばれる成田空港建設反対の過激派による事件について紹介します。この成田闘争の中で、土地収用手続史上最大・最悪の汚点となった事件(千葉県収用委員会会長襲撃事件:収用手続きの機能が十数年事実上機能しなかった事件)がありました。内容は、以下のとおりです。
○ 千葉県収用委員会会長襲撃事件 (出典:ウィキペディア)
千葉県収用委員会会長襲撃事件とは、1988年(昭和63年)9月21日に、千葉県千葉市で発生した個人を標的としたテロ事件であり、日本の新左翼の中核派が起こした未解決事件である。
事件の発端
収用委員会とは、土地収用法に基づく行政委員会で、地方自治法により都道府県に設けられている。新東京国際空港(現・成田国際空港)が所在する千葉県も、当然の事ながら「千葉県収用委員会」を設けていた。
当時、新東京国際空港の二期工事が進められており、千葉県収用委員会は収用手続を開始しようとしていた。しかし、そこに目を付けた中核派は、千葉県収用委員会の委員を「辞任させる」ことにより、新東京国際空港の運営や工事を妨害することを計画したのである。
事件の概要
各収用委員の自宅や自動車が放火されたり、日常的な嫌がらせや悪戯が行われ、委員達は警察に何度も相談したが、千葉県警察は助けてくれなかった。新聞やテレビ等の各マスメディアも、そんな状況を無視して取り上げなかった。
そんな孤立無援な状態が続いた後の1988年(昭和63年)9月21日、千葉県千葉市(現・中央区)祐光1丁目の路上で、数人の襲撃者が、帰宅途中の千葉県収用委員会会長の小川彰(当時57歳)を自宅付近で襲い、鉄パイプやハンマーで全身を殴打し、両足下腿部や両肘部を複雑骨折させるなど重傷を負わせた後、逃走した。小川や目撃者が110番通報を防ぐために、事件現場の電話線が予め切断されていた。
事件後、中核派は「革命軍軍報」なる犯行声明文を出したため、公安警察は中核派によるテロ事件と断定した。小川は幸い一命を取り留めたものの、この事件の際の負傷の後遺症を苦に、治療入院していた北九州市で、2003年(平成15年)2月に入水自殺した。
事件が与えた影響
事件後、中核派は犯行声明を出し、「収用委員会解体闘争」と称して、千葉県収用委員全員の住所と電話番号を、機関紙『前進』に掲載して、「家族ともども処刑台に乗っていると思え」などと個人テロを宣言し、収用委員に対して組織的に脅迫じみた手紙、電話などを送り続け、殺傷を目的とした時限式発火装置による家屋への放火、圧力鍋による爆弾、遂には収用委員の親族に当たる小学生の誘拐未遂事件まで起こした。
ここに至り、1988年(昭和63年)10月24日に、収用委員全員が沼田武千葉県知事(当時)に辞表を提出し、千葉県収用委員会は機能停止に陥った。新東京国際空港の建設を推進していた運輸省や日本国政府にとっては、土地収用が出来なくなる想定外の出来事であった。
その後、千葉県は収用委員を選任できずにいたが、千葉県内のインフラ整備に支障を来たすようになったこと、また新左翼のテロも沈静化したことから、2004年(平成16年)に、約16年ぶりに再建された。ただし、収用委員の氏名を非公開とし、成田国際空港には適用しないこととした。
2007年(平成19年)12月、千葉県は収用委員会7名の氏名を公表した。土地収用法では、収用委の審理や議事録は原則公開となっているが、新左翼のテロによる報復攻撃を防ぐために、非公開という異常事態が続いていた。
なお千葉県は、道路建設などのインフラ整備に限り、土地収用法を適用しており、現在も成田国際空港に対しては、適用外の状態が続いている。
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