最近の収用事例

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4 R元年5月23日
東京都収用委員会平成28年17号事件

最近の収用事例(収用の現場からのレポート)



(東海4県・東京都・沖縄県・長崎県の最近の収用事例)


4 東京都収用委員会平成28年第17号事件の概要(借地部分の底地価格と借地権価格との配分割合に関する争点事案:平成28年7月28日収用裁決申請、平成29年3月24日明渡裁決申立て平成30年3月30日裁決)

(※説明の便宜のため、事例及び裁決書の内容を少し変更してあります。正確な内容を知りたい方は、ホームページの連絡先にお問い合わせください。)


(件名) 東京都市計画道路事業補助線街路第92号線のための土地収用事件

起 業 者  東京都知事 小池百合子

(裁決申請及び明渡裁決の申立てに至った経緯等概要)

 本事業に必要な後記の土地(以下「本件土地」という。)を取得するため、平成27年6月以降、土地所有者A、関係人B及び同Cと協議を開始したが、同人らの間で借地部分底地価格借地権価格との配分割合(以下「配分割合」という。)について、協議が調わなかった

 こうした中、平成28年7月22日にB及びCから土地収用法(以下「法」という。)39条2項により裁決申請請求がなされたので、起業者は、同月28日に法39条1項及び44条1項により裁決の申請を行い、平成29年3月24日に法44条2項により裁決申請書の添付書類の補充を行い、同時に法47条の2第3項により明渡裁決の申立てを行ったものである。


(本事例のポイント 借地部分の底地価格と借地権価格との配分割合について) 

(起業者の申立て要旨)

 AとB及びCとの間で協議が調わなかったため、木造建物の敷地のために賃貸借されている土地として不動産鑑定士3者に鑑定を委託したところ、その鑑定内容がいずれも合理性を有し、優劣をつけられなかったことから、これを相加平均し、底地価格の割合40%借地権価格の割合60%と認定した。

(土地所有者Aの申立ての要旨)

異議がある。

底地価格の割合を60%借地権価格の割合を40%とすべきである。

 本件は、年額地代が固定資産税額の4倍程度、相当地代の7.6%程度と極めて低廉である。しかも、権利金及び更新料の授受がなく、借地権設定の対価が全く支払われていない。国税庁が定める借地権割合は、適正な地代が支払われている借地権についての一般的な割合を定めたものであり、権利金の授受のない自然発生的なものについて適用される理由はない。Cは相続税を借地権割合70%で申告したと主張するが、これは、そのような相続財産であるとCが自認したにすぎず、補償における配分割合の判断とは別個にすべきである。

 また、借地の賃貸借契約は、木造建物の敷地として使用させる目的であるところ、物件調書添付の物件調査書によると、C居宅は構造部分が鉄骨造となっている。これは、賃貸人の承諾のないものであり、契約違反による契約解除事由の存在は、借地権の評価を減少させる要因となる。

(借地権準共有者Bの申立ての要旨)

異議がある。

国税庁の財産評価基準によると、本件土地は、底地割合30%借地権割合70%の地域にあるから、配分割合もこの割合になる。一般的に借地権譲渡の場合、土地所有者に譲渡承諾料を支払うこととなるが、今回は個人的な譲渡でなく、公共事業のための買収であるから、承諾料は発生しない以上、借地権価格の割合は70%になる。

(借地権準共有者Cの申立ての要旨)

異議がある。

相続の際、国税庁の相続税路線価の借地権割合70%により、納税手続を行っているので、配分割合としてこの割合を求める。借地権者が第三者に借地権を譲渡する場合、土地所有者に借地権割合の10%を支払う慣例があることは承知しているが、今回は、起業者に譲渡するものであるから、慣例に従う必要はない。


(収用委員会の裁決理由)

(1) 上記で認定した事実のほか、現地調査の結果、相続税路線価の借地権割合、審理、鑑定の内容等を総合的に考慮した結果、底地価格の割合35%借地権価格の割合65%をもって相当とする。

(2) なお、Aは、借地権の評価を減少させる要因として、B及びCとの土地賃貸借契約には契約解除事由が存在すると申し立てている。

 土地に対する補償金について、法71条は、事業の認定の告示の時(なお、都市計画事業においては、みなし告示の時。)を補償金の算定基準時とする旨定めていることから、収用する土地等の評価は専ら基準時である事業の認定の告示の時において行うことを要し、基準時以外の時点における事情を基にして評価することはできない(東京高裁平成16年11月25日判決参照)。

 本件の場合、みなし告示の時は平成28年3月15日であるが、Aは、契約解除事由の存在を、平成29年3月17日に作成された物件調書により明らかになったとして、当委員会に提出した意見書において主張しているにすぎず、当委員会に対し、みなし告示の時において、B及びCとの間の契約を解除していたなどと主張するものではなく、そのような事実をうかがわせる資料の提出もない。

 そのため、Aの申立ては認められない。

(3) また、B及びCは、国税庁の財産評価基準を基に、借地権価格の割合を70%とすべきと申し立てている。

 しかし、借地権は、土地所有者と借地権者との間の個別的な借地契約により設定されるものであり、契約の内容等により相当に個別性の強い権利であるから、借地権価格の割合の判断に当たっては、個々の借地権の個別的要因が考慮されなければならない。この点、国税庁の財産評価基準の借地権割合は、相続税の適正な課税のために課税実務上の便法として定められたものであり、個々の借地権の個別的要因が考慮されていない以上、個々の土地の底地価格及び借地権価格について正当な補償をすべき収用において、同基準の借地権割合を判断のための一参考資料とすることはできても、これをもって直ちに個別具体の借地権価格の割合として採用することはできない。

 そのため、B及びCの申立ては認められない。

 なお、収用は法に基づくものであり、私人間の借地権の取引ではないから、B及びCの申立てのとおり、配分割合の判断に当たって、譲渡承諾料が考慮されるものではない。