10 マンションの管理 5
マンションの火災保険(共用部分と専有部分の保険について)
(本講座については、「東山の森不動産・補償コンサルタント-YouTube」でも扱っていますので、一度ご覧ください。)
〇 共用部分と専有部分の保険について
マンション(団地)などの区分所有建物は、各区分所有者の単独所有となる「専有部分」と エレベータや階段、廊下、エントランスのような区分所有者の全員の共有となる「共用部分」 から構成されています。
このように、分譲マンションには、専有部分と共用部分があることから、火災保険の契約方法としては以下の方法が考えられます。
・専有部分については、
入居者(区分所有者)が個々に建物と家財の両方に対して保険契約をする。
・共用部分については、
管理組合が契約者となり、共用部分の財物全体に対して一括保険契約をする。
(保険選択の注意点)
マンション管理組合が建物の共用部分の財物全体に保険を掛けていても、入居者(区分所有者)の単独所有となる専有部分の壁や、室内ドアなどが火災で被害を受けても補償されませんので、入居者(区分所有者)は専有部分について建物と家財の両方に保険を掛ける必要があります。
また、他人の家から類焼して自宅が燃えた(あるいは逆に相手の家を燃やした)場合に関係する法律が「失火責任法(失火法)」です。
民法では通常、不法行為(違法行為)について、「故意または過失によって他人の権利を侵害したる者はこれによって生じたる損害を賠償する責めに任ず」(民法709条)と規定しています。
すなわち、自分の不注意等で、第三者(他人)に迷惑を掛けた場合、相手方に損害賠償しなさいということです。社会的・道義的な責任があるのはもちろん、法律上も損害賠償責任があると明確に定められています。
以上のとおり、不法行為(違法行為)が発生した場合、通常は加害者に責任があるのは当然です。しかし、失火により周囲に類焼した場合は、民法第709条ではなく、別の法律(「失火の責任に関する法律」)が適用されます。
「失火の責任に関する法律(失火責任法)」
「民法第709条 の規定は、失火の場合にはこれを適用せず。但し、失火者に重大なる過失ありたるときはこの限りにあらず。」 (失火責任法)
失火の責任に関する法律(失火責任法、失火法)は、民法709条で規定されている原則とは別に、失火(火事)の場合、この原則を適用しないとしています(重過失の場合を除く。)。
この法律は明治32年に制定された古い法律ですが、現在でも適用されています。日本は昔から木造家屋が密集しており、火災が発生すると類焼しやすい住環境にありました。そのため、火災の場合、自宅を失った上に延焼させた火元の人に損害賠償責任を負わせるのは、個人の賠償能力をはるかに超え、無理である、といった考え方が根本にあるようです。
この法律が現在の日本の建築物の構造や環境、又は考え方にマッチしているか否かは疑問ですが、これらの法律が現実に生きていることを覚えておいてください。
そして、その対策を立てる必要があります。その対策(自衛手段)が、今回お話ししている個人の火災保険です。
【参考:重大なる過失(重過失)の具体例】
●天ぷら油
天ぷら油を入れた鍋をガスコンロで加熱したまま、長時間その場を離れた間に引火
●暖房器具
・電気ストーブをつけて布団で横になったところ眠ってしまい、布団に火が燃え移って引火
・石油ストーブのそばに蓋の無い容器に入ったガソリンを置いた
●寝タバコ
寝タバコで引火、火災が発生
上記具体例は、あくまで判例の事例の一つですから、個々の事案によって法律上の判断が異なります。そのため、上記の事例も事案の状況によっては、重過失が認められない場合もあります。
また、重過失が認められたとしても、火元の加害者に資力がなければ、そもそも責任を追及することは困難です。
(ここでは、)
民法709条における一般的な損害賠償責任と失火責任法の基本的なところを理解していないと、火災の場合、被害者になっても加害者になっても混乱します。そのためにも、法律上の損害賠償の責任関係をしっかり理解しておく必要があります。
以上、火災の場合の損害賠償額は個人の経済力を遙かに超えます。それに対応できるのは保険です。
なお、火災保険は自分の所有物に付帯する保険です。他人に損害賠償する保険ではありません。
従って、各入居者(区分所有者)それぞれが、自分の財産を守るため、自衛手段として、保険を掛けることをお勧めします。